Q-1(出勤停止措置と賃金支払義務の有無)

Q-1(出勤停止措置と賃金支払義務の有無)

新型コロナウイルス感染症対策を進めている企業の中には、感染拡大防止のため、
①新型コロナウイルス罹患者・罹患している疑いがある者(疑似症患者)
②同居の家族が新型コロナウイルスに罹患した従業員その他濃厚接触者
③自主的に、不要不急の事業を縮小する場合の当該事業に従事する従業員
④政府や地方自治体の要請に応じて不要不急の事業を縮小する場合の当該事業に従事する従業員
のそれぞれについて従業員の出勤を停止する措置が考えられます。これらの場合に、使用者は当該従業員に対して賃金を支払う必要があるのでしょうか。

A-1

①の場合

賃金を支払う必要はありません。

②ないし④の場合

業務の内容、政府および自治体からの自粛要請の有無・切迫性の程度、感染症の蔓延の経過及び現状、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事することができる可能性等を考慮し、出勤停止措置が「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」によるといえる場合には、賃金を支払う必要があります。

(解説)

(1) 罹患者・疑似症患者の場合(①)

まず、①の新型コロナウイルス罹患者については、使用者は賃金を支払う必要はありません。労働者は使用者との労働契約に基づき、契約の本旨に従った労働を行う義務を負いますから、それが不能な場合には契約不履行となるからです。

新型コロナウイルス罹患者と診断されていない場合でも、発熱等の諸症状により、新型コロナウイルスに罹患している疑いがある場合(疑似症患者)には、罹患者同様に契約不履行となる(労務提供はできない)ので、賃金の支払いは不要であると解されます。

(2) ②ないし④の場合

この場合は、労働者は自らの責めに帰すべからざる事由により出勤停止を命じられるのですから、単に債権者の受領遅滞(受領拒否)にすぎず(民法413条)、また、履行不能の場合でも、債権者の責めに帰すべき事由による場合は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わないとされています(民法536条2項)。したがって、事業者が労働者に対して賃金を支払う必要があるかどうかは、出勤停止措置が「債権者の責めに帰すべき事由」によるものかどうかにかかることになります。

その判断にあたっては、業務の内容、政府および自治体からの自粛要請の有無・切迫性の程度、感染症の蔓延の経過及び現状、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事することができる可能性等の具体的事情によって判断することが考えられます。

留意すべきは、④「政府や地方自治体の要請」により事業を縮小しそれに伴って出勤停止を命じる場合であっても、使用者は直ちに賃金支払義務を免れるわけではないということです。現在、新型コロナウイルスに関して、一定範囲において政府や地方自治体による事業活動の自粛の要請は出ていませんが、今後このような展開になった場合に、平成21年に流行した新型インフルエンザについての対応方針が参考になります。「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(新型インフルエンザ及び鳥コロナウイルス感染症に関する関係省庁対策会議・平成21年2月17日)においては、「感染拡大防止の観点から国や地方自治体が事業活動の自粛を要請する」とされていますが(109頁)、同時に、「仮に、それらの事業者が自主的な判断により事業活動を継続しようとする場合」には対策を講じて事業継続する選択肢も認めています(110頁)。つまり、業務縮小、事業休止をするか、あるいは事業継続をするかは、最終的には事業者の経営判断とされていました。

したがって、政府や地方自治体による事業活動の自粛の要請があり、かつ、事業者の自主的な判断による事業活動の継続の選択肢が認められる場合には、自粛要請があったとしても、直ちに労働者に対する出勤停止措置が「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」によらないとはいえないと考えられます。

以上から考えると、業務の縮小や出勤停止措置が「債権者の責めに帰すべき事由」による労務の受領拒否なのか、客観的な状況からやむを得ないものかどうかを的確に判断するため、新型コロナウイルス感染症の蔓延の経過および現状等を政府、研究所等から情報を得て、また、当該事業所内の労働者が罹患している程度などを確認の上、専門家等と協議を尽くすことが必要であり、その結果、出勤停止措置が必要かつ相当であると判断されたのであれば、原則として「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」によらないものとして、賃金の支払いは不要ということになるでしょう。

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