ニュースレター登録

Legal Contents 法務コンテンツ

  • TOP
  • 法務コンテンツ
  • 今年もゲリラ豪雨の季節がやってきました。
    水害による損害賠償請求の一例

中野 明安

今年もゲリラ豪雨の季節がやってきました。
水害による損害賠償請求の一例

2024/07/31

今年もゲリラ豪雨の季節がやってきました。
水害による損害賠償請求の一例

 ウェザーニューズは2024年7月2日、「ゲリラ豪雨傾向2024」を発表しました。7~9月のゲリラ雷雨は、全国でおよそ8.7万回発生する予想です。90日で算定すると1日約100回のゲリラ豪雨、大変ですね。

 今年のゲリラ雷雨 総発生回数は約8.7万回、ピークは8月中旬 – ウェザーニュース (weathernews.jp)

 この予想、昨年より若干少なくなるようですが、過去5年平均と比べるとやや多くなるとの数値です。西日本と東日本では昨年並の発生回数のところが多く、北日本では昨年よりも発生回数が少なくなるようです。特に北海道と青森県では昨年の半分以下の発生回数となる見込みです。地域差があることも初めて認識しました。
 ゲリラ雷雨では、激しい雨による冠水や浸水、ひょうによる被害、落雷による停電や交通機関への影響など様々な被害が懸念されます。事業継続について十分な検討が必要です。

 さて、集中豪雨による賃貸駐車場が浸水被害を被って駐車していた原告所有の自動車(時価116万5000円)が水没し、廃車となってしまって、原告が賃貸人に対しての損害賠償を請求した場合、裁判所はどのような判決を出すでしょうか。

 事案は、原告が借りた被告所有の駐車場がある地域では、過去に浸水被害を伴う集中豪雨が5回発生しており、原告が借りた被告の駐車場も、過去に2回浸水があり、そのうち1回は駐車車両に被害が発生していましたが、駐車場所有者は、排水設備の性能の改善等をすることもなく、契約前にこのような被災があったことを原告や仲介業者に説明しないまま駐車場の賃貸借契約を締結しました。その後、本件駐車場のある地域に再度、集中豪雨があり、本件駐車場が浸水して原告の所有する自動車が水没し、廃車となったということです。

 判決では、過去の浸水被害を契約前に借主に説明しなかったことに説明義務違反があるとして、貸主に対して、浸水により廃車になった車の時価を借主に賠償するよう命じました。(名古屋地方裁判所平成28年1月21日判決)

 そもそも、この事案でもそうなのですが、短時間に大量の雨が降った場合には、一般的な対策や対応では、浸水被害は防げないようです。責められるべき「落ち度」がない。いわゆる不可抗力という状況ですね。また、賃貸借契約書には、天変地異による損害を免責とする特約があったようです。 したがって、この裁判でも、駐車場所有者(賃貸人)が浸水による被害を防ぐ対策や対応を怠ったことを理由として損害賠償を請求しても、過失は無いと判断される可能性が高いと言えます。

 したがって、この裁判でも、駐車場所有者(賃貸人)が浸水による被害を防ぐ対策や対応を怠ったことを理由として損害賠償を請求しても、過失は無いと判断される可能性が高いと言えます。

 そこで、原告の弁護士は、損害賠償請求の根拠として、賃貸借契約締結に際しての「説明義務違反」を主張しました。
 消費者契約法3条1項にも、消費者契約(事業者と消費者との契約)の締結の勧誘に際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について必要な情報の提供に努めなければならないと定められています。

 裁判所は、上記の消費者契約法に触れ、「消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めるべき立場にあったこと(消費者契約法第3条第1項)等をも考慮すると、被告は、原告において当該事実を容易に認識することができた等の特段の事情がない限り、信義則上、原告に対し、本件駐車場が近い過去に集中豪雨のために浸水し、駐車されていた車両にも実際に被害が生じた事実を、原告又は仲介業者であるAに告知、説明する義務を負うというべきである。」として説明義務違反を認め、被告(駐車場賃貸人)に対して自動車の時価の賠償を命じました。

 「原告において当該事実を容易に認識することができた等の特段の事情がない限り」が争うポイントなのでしょうが、自然災害がたびたび起き、同様の事態に至ったことが複数回あった場合には、上記特段の事情を主張するとか、不可抗力であることの主張とは別に、当該リスクについて契約締結前に借主(契約当事者)に説明しておいた方が良いですね。「災害は不可抗力だから責任を負わない」とは言い切れない事案の紹介でした。

主な研究分野