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中野 明安

インタビュー記事

2024/06/28

インタビュー記事

 ある弁護士会からBCPについてインタビューを受けました。その取材内容の一部ですが、一足先に皆様にお届けします。


中野明安弁護士独占インタビュー

 あなたの法律事務所にBCP(事業継続計画)はあるだろうか。BCP策定の契機としていただくべく、災害対策や事業継続に関する第一人者である中野明安弁護士(第二東京弁護士会)にインタビューを行った。

――BCPとはどのようなものでしょうか?

中野 ひとことで言えば、災害を含む重大リスク事象が起きても事業を継続するため、事業所として「生きて いる」ための計画書です。発災時の対応を定めた災害対応マニュアルは、BCPの一部に位置付けられます。
 BCPのポイントは、代替手段を準備することです。弁護士の場合、極論すれば昔風で言えば「紙と鉛筆とミカン箱さえあればできる」、現代で言えば「PCと電源とネット環境さえあればできる」事業です(極論すれば)。ただ、たとえば、停電すると仕事ができなくなってしまうのでは事業も顧客も家族の生活も守れません。そこで、非常用電源や別の執務場所等の代替手段の準備が重要です。
 災害等で経営資源を失うことは、その時になって気が付きますが、それでは遅い。だからこそ事前の計画が必要です。代替手段の準備やデジタル化、継続費用等がかかりますが、その額は災害後の回復費用よりは安く済みます。

――法律事務所のBCPは、どのように策定すればよいでしょうか?

中野 まず、命を守る、ということです。当然ですが、弁護士・事務局員の命はかけがえのないものであり、また、BCPの実践上も「人的資源の維持」は最重要です。東日本大震災や熊本地震で被災した事務所を拝見して、壁固定されていない記録が詰まって重いキャビネットが転倒する例があることを伺いました。情報管理のために扉付きのものが多く、地震で揺れた際、記録だけが落ちるのではなく、重い記録が中にはいったままキャビネットごと倒れています。相当な重量であり到底そのままでは元に戻すことはできないとのことでした。法律事務所ではありませんが、下敷きになって命を落とした例もあります。災害への備えも「安全対策、ひいては命が最も重要」であることに気づくところから始まります。安全配慮義務の観点からも、事務局の安全確保、事務所の安全対策が重要です。
 また、身近な入り口として消防計画があります。事務所の消防計画で、地震発生時の避難方法をどう定めているか、ご存じですか? 東京消防庁のフォーマットでは地震発生時の屋内避難が例示されており、敢えて変更しない場合、火災の発生がなく、建物の安全性が確認できれば、屋内避難になります。
 消防計画で屋内避難と定めながら来所者を屋外に避難させると、来所者は「追い出された」感覚を持つかもしれません。計画と異なる屋外避難をさせて、その結果、外壁等の落下で負傷したら、注意義務違反となる可能性があるので要注意です。

――災害に備える活動が行政の施策にもつながったとうかがいました。

中野 家具の転倒防止について、働きかけを行って仕組みができたことがあります。
 事務所や家を賃貸している場合、家具の転倒防止のために壁や床に穴をあけたときの原状回復の負担が気になり、対策が進まないことがあります。しかし、これは法律上は通常使用に伴う「通常損耗」とされるべきものであり、原状回復義務はないはずです。弁護士が法的な説明を実践することにより、社会の考え方が変わる可能性があります。
 実際、この考え方を公営住宅に広めるのはどうかと、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんと話し合い、自治体に働きかけました。すると、東京都港区では、担当者が多くの予算をかけずに対策をアピールしやすいと賛同してくれ、区長にかけあい、区営住宅の壁についた家具固定の釘穴などの傷については原状回復義務を免除し、家具の転倒防止器具取付けを支援する制度を実施してくれました。法律の専門家が法的な知見を用いて制度の実施を支援すること、これも弁護士が社会貢献できる貴重な場面の一つかと思います。

中野 ある企業が被災した際、従業員の間に「うちの会社は、もう駄目なんじゃないか。」という雰囲気が広がり、経営者が「これは会社を続けられないかもしれない。」と危機感をもったことがあったそうです。それくらい、被災時に事業所全員の前向きな気持ちを維持し続けることは重要で、しかし難しいことかもしれません。
 法律事務所も同じです。弁護士も自らの危機管理に無頓着であってはならないと思います。「きっと何とかなる」では顧客の信頼は得られません。事務局からの信頼も得られ無いでしょう。日本で業務を行っている以上、災害で事業継続に支障が生じる可能性は低くないと考えるべきです。弁護士が災害(を含む業務リスク)を意識し、それに耐えられるよう準備をすることで、法曹界全体のパワーの源になって頂きたいと考えます。ぜひ、一緒に弁護士、法律事務所のBCPに取り組みましょう!

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