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Marunouchi Law Lab

動画撮影に関する一般的な留意点

2024/02/29

動画撮影に関する一般的な留意点

Marunouchi Law Lab

 本稿では、弊所ITチームにおいて頻繁にご相談いただく典型的なご質問として、各社様の業務に活用することを意図した動画撮影に関する法的留意点についてご紹介させていただきます。紙幅の関係やあらゆるケースにおける注意点を網羅的にご説明することは難しいため、本稿では一般的な観点から留意すべき事項をご紹介するにとどめますので、皆様の業務において迷うことなどがございましたら、お気軽にご連絡ください。

Q ご質問

 当社では、現在、商品販促の一環として当社が販売する商品の利用を実演する様子等や、採用活動の一環として会社内外における業務風景等を撮影し、撮影した動画を自社のHP上に掲載する等して商品販促や採用活動に利用することを計画しております。もっとも、今まで当社においてこうした取組を行ったことがないので、動画撮影に関して法的に留意すべき事項があれば教えていただきたい。

A ご回答

第1 物の写り込みとの関係

1 著作権法との関係


⑴ 考え方

 例えば、撮影した動画に美術品、キャラクターグッズ、絵などの他人の著作物が写り込んでしまった場合には、著作権法との抵触が生じ得ます。著作物を著作者の承諾を得ずに複製した場合は、原則として、著作者の複製権の侵害に当たります(著作権法21条)。したがって、動画を撮影した際に、当該動画に他人の著作物が写り込んでしまった場合には、当該著作物を複製するものとして、当該著作物の著作者の複製権を侵害し得ます。
 なお、著作権法上の権利制限規定、具体的には、①公開の美術の著作物の利用(同法46条)、②付随対象著作物の利用(同法30条の2)に該当する場合には、例外的に、当該動画の撮影行為は適法となります。したがって、撮影した動画に他人の著作物が写り込んでしまった場合には、①又は②の要件を充足するか検討する必要があります。


⑵ ①公開の美術の著作物の利用(同法46条)

 まず、写り込んだ著作物が、著作権法46条に定められる屋外の場所に恒常的に設置される美術の著作物の原作品や建築の著作物に該当する場合には、ご質問にある利用方法を意図して撮影した動画の通常の利用方法からして、同条に基づき利用が禁じられる同条各号列挙事由には該当しないと解されますので、著作権法との関係では、これらの写り込みは問題にならないと考えられます。
 もっとも、単なる写り込みを超えて、メインビジュアルとしてこれらの著作物を利用した場合には、不正競争防止法やモノのパブリシティ権を根拠として、使用料の請求などのクレームがつく可能性がございますので、そのような利用は避けるべき(あるいは所有者又は管理者の許諾を得るべき)と考えられます。


⑶ ②付随対象著作物の利用(同法30条の2)

 ②付随対象著作物の利用(同法30条の2)の要件について、当該要件の充足性は個別の事案ごとにその具体的な事情に従い判断されるため、一概に結論を申し上げることはできません。しかしながら、一般的にいえば、当該著作物が画面の中で軽微な構成部分にとどまり、当該著作物を分離することが社会通念上困難といえる場合であれば、当該著作物の写り込みは適法と解される可能性が高いものと考えられます。逆に、分離することが社会通念上困難であるとは認められないにもかかわらず、あえて他人の著作物を動画を構成する一部として利用するような場合には、著作者の複製権を侵害するものとして違法と判断される可能性もあります。実際に紛争になった事例も多数存在しますので(例えば、東京高判平成14年2月18日判時1786号136頁)、著作者の許諾を得ることなく、このような態様での撮影をすることはお控えいただくべきと考えられます。


2 商標法、不正競争防止法との関係

 
 他人の商標や他人の商品等表示が動画に写り込むこともあり得ると思われますが、これらの使用が商標法や不正競争防止法に違反することになるのは、これらを出所識別表示として使用した場合に限られるため、単に写り込んだのみであれば問題にならないと考えられます(なお、単なる写り込みを超えメインビジュアルとしての利用をした場合に不正競争防止法違反の可能性があることは上述のとおりです。)。


3 民法上の不法行為責任との関係

 
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合、民法上の不法行為責任(民法709条)を問われる可能性があります。不法行為の要件の充足性については個別の事案ごとにその具体的な事情に従い判断されるため、一概にいかなる場合に不法行為責任を問われるか申し上げることはできませんが、例えば、公道から見えない敷地内や屋内の様子、撮影禁止と明確に表示されている物、車のナンバープレート、干してある下着その他私的な事項に関わるものなどを撮影することは、他人のプライバシー等の侵害に該当すると判断される可能性が否定できないと考えられます(なお、プライバシー権との関係については、後記第2・2をご確認ください。)。


第2 人の写り込みの観点


1 個人情報保護法との関係1

 特定の個人を識別することができる情報(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含みます)が撮影対象に含まれる場合(例:人の顔や表札等)には個人情報保護法の規制に従う必要があります。まず、同法20条1項によれば、「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。」とされておりますので、カメラが作動中であることを掲示する等、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能とするための措置を講ずる必要があると考えられます(令和5年12月25日付で更新された「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A「1-13」参照)。
 加えて、個人情報の利用目的をあらかじめ公表するか、 又は個人情報の取得後速やかに本人に通知若しくは公表する必要があり(同法21条1項)、またその特定された利用目的の範囲内で当該個人情報を利用する必要もあります(同法17条、18条1項)。さらに、当該個人情報を個人情報データベース等として構成する場合には2、第三者提供に関する規制や保有個人データに関する規制等の個人データに関する規制に従う必要もあります。


2 肖像権、プライバシー権との関係


 動画に人が写り込んでいる場合、被撮影者の肖像権(自己の肖像をみだりに利用されない権利)やプライバシー権(私生活をみだりに公開されない権利)を侵害する可能性があります。当該撮影行為が肖像権やプライバシー権の侵害として不法行為に該当するかについても、個別の事案ごとにその具体的な事情に従い判断されるため、一概に結論を申し上げることはできません。もっとも、肖像権について、撮影の場所、撮影の目的、撮影の必要性、撮影の態様等を総合考慮し、自己の肖像を撮影・利用されることによる人格的利益の侵害が社会生活上受忍できる限度内のものであれば、肖像権侵害として不法行為にはならないとした判例(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁)や、プライバシー権について、これを公表等されない法的利益と公表等する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合にはじめて不法行為になると考えられるとした判例(最判平成6年2月8日民集48巻2号149頁)が存在し、これらの判例の判示が参考になると思われます。
 もっとも、そもそも誰の肖像・私生活であるのかわからない場合にはこれらの権利の侵害の問題は生じないため、誰であるか特定できないようにする(例:顔にぼかしを入れる)のが実務の一般的な対応と考えられます。


第3 撮影場所との関係


1 私有地や管理者が存在する場所


 私有地や管理者のいる場所(土地や施設)において無断で撮影行為を行うことは、刑法上の住居侵入罪や建造物侵入罪、軽犯罪法1条32号の罪に問われる可能性もあります。したがって、これらの場所で撮影行為をする場合には、その所有者や管理権者の許可を得て行う必要があると考えられます。


2 道路


 道路での撮影については、「一般交通に著しい影響を及ぼす」ような場合には事前に所轄の警察署の許可を得る必要があります(道路交通法77条1項4号)。具体的には撮影行為が「道路において、ロケーション、撮影会その他これらに類する行為をすること」(東京都道路交通規則18条1項4号)といえるものであれば、これに当たると考えられますが、そうではない単なる路上における撮影行為は基本的に「一般交通に著しい影響を及ぼす」ような場合に当たらないと解されます。


3 海岸等や河川敷等


 海岸等や河川敷等での撮影については、一定の規模を超えるような場合には、海岸法7条や河川法24条の許可の対象となります。また、各海岸や河川敷ごとに管理権者によるルールが設けられていることがあるためそちらについても確認する必要があると考えられます(例えば、墨田区のHP3によれば、隅田川における土地の占用や一定の場所での撮影等を行う場合は、事前に区への申請や届出が必要とされとされております。)。


4 公園


 公園での撮影は、国が管理する公園については都市公園法12条1項、地方公共団体が管理する公園については各地方公共団体の都市公園条例、国立公園等の自然公園については自然公園法20条3項により、所定の場合に、許可の対象となります。また、各公園ごとに管理者によるルールが設けられていることがあるためそちらについても確認する必要があると考えられます(例えば、新宿御苑においては、商用目的の撮影が禁止されております4。)。


第4 撮影方法との関係


 ドローン(航空法2条22号に該当する無人航空機)による撮影は、航空法により規制されております。具体的には、住宅や駅前等の人または家屋の密集している地域(人口集中地区)の上空など同法所定の空域の飛行は原則として禁止され(同法132条の85)、日中に飛行させることなど同法所定の飛行方法によらなければならないとされるなどの規制がされているため、同法に定める規制に抵触しないようにする必要があります。
 また、ドローンによる飛行が条例で規制されている地域や神社・仏閣などではドローン撮影を禁止しているところもあるので、撮影にあたってはこのような要請がされていないか確認する必要があります。
 加えて、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」(民法207条)とされておりますので、当該土地の所有権者や管理権者の許可なしにその上空から空撮することは所有権侵害のクレームを受ける可能性があります。また、第2の3、第3で述べたとおり、上空からの撮影により肖像権やプライバシー権等の他者の権利を侵害する可能性もあります。したがって、こうした権利侵害を生じない態様で実施する必要もあると考えられます。


第5 従業員との関係


 撮影した動画に従業員が写っている場合には、当該従業員の退職前後を問わず、従業員の肖像権やプライバシー権の問題が生じます。とりわけHP上に掲載するような場合には、これらの権利を侵害することのないよう配慮することが必須であり、当該従業員の同意を得るべきと考えられます。また、個人情報や個人データの別に留意しつつ、個人情報保護法との関係で問題が生じないか検討する必要があると考えられます。


第6 撮影した内容との関係


 撮影自体に関するものではありませんが、撮影した内容が、他人を誹謗中傷(侮辱)し若しくはその名誉を毀損したり、または他人の信用を毀損し若しくはその業務を妨害するなど、他人の権利や利益を侵害する場合には、損害賠償責任を負いうるだけでなく、刑事罰の対象になる可能性もあります。

(文責:田村遼介) 


1 物の写り込みとの関係でも問題となります。
2 IoT 推進コンソーシアム・総務省・経済産業省が作成した令和4年3月付Ver3.0「カメラ画像利活用ガイドブック」16頁・注16によれば、「インデックス等を付与せず、検索性を持たせないまま顔等の特徴が含まれる画像を保存している場合も、「個人情報データベース等」に該当するか否かは、個別事案ごとに判断が分かれるところであるため、管理方法には十分に留意する必要がある。」とされております。
3 https://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/kasen_kyouryou/kasen_senyou.html
4 https://www.env.go.jp/garden/shinjukugyoen/2_guide/pro_01.html

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