本年5月17日、従来のプロバイダ責任制限法が、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(略称:情報流通プラットフォーム対処法)に改正されました。この法律は、誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対し、①対応の迅速化及び②運用状況の透明化に係る措置を義務づけるものです。
改正法は、2025年5月17日までの政令で定める日までに施行されますが、本年12月19日に、同法の施行に向けて、同法施行規則の改正案及び関連ガイドライン案が公表され、来年1月23日までのパブリックコメントに付されました(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000419.html)。
プロバイダ責任制限法の制定から20余年が経過し、電気通信役務を利用して行われる名誉毀損、プライバシー侵害等の権利侵害の件数は、顕著に増加しました。また、SNS等のサービスは、情報の拡散を容易にする機能を備えているため、一度これらのサービスを利用して発信された権利侵害情報が、短時間で広範囲に共有される事態が生じており、被害の深刻化を招いています。
このようなことから、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会は、プラットフォーム事業者によるインターネット上の 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策について検討を行い、2024年1月に「プラットフォームサービスに関する研究会三次とりまとめ」をとりまとめました。このとりまとめを受け、本年5月、従来のプロバイダ責任制限法を改正する形で情報流通プラットフォーム対処法が成立したものです。
情報流通プラットフォーム対処法(改正部分)は、総務大臣が大規模プラットフォーム事業者(大規模特定電気通信役務提供者)を指定した上で、当該事業者に、侵害情報送信防止措置(削除措置)に係る対応の迅速化と運用状況の透明化を義務づけるものであり、その概要は、以下のとおりです。
項目 | 概要 | 条文 |
①大規模プラットフォーム事業者の指定 | ⅰ総務大臣による大規模特定電気通信役務提供者の指定 | 20条 |
ⅱ大規模特定電気通信役務提供者による届出 | 21条 | |
②プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律 | ⅰ被侵害者からの侵害情報の送信を防止する措置 (侵害情報送信防止措置)を講じることの申出を受け付ける 方法の規定及び公表 | 22条 |
ⅱ申出があった場合の、侵害情報に係る必要な調査の実施 | 23条 | |
ⅲ侵害情報調査専門員の選任 | 24条 | |
ⅳ申出者に対する、侵害情報送信防止措置を講じたこと、 又は侵害情報送信防止措置を講じなかったこと 及びその理由の通知 | 25条 | |
③プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律 | ⅰ送信防止措置の実施に関する基準等の公表 | 26条 |
ⅱ送信防止措置を講じたとき発信者に対する通知等の措置 | 27条 | |
ⅲ申出の受付の状況、送信防止措置の実施状況等の公表 | 28条 | |
④その他 | ⅰ報告の徴収、勧告、命令及び罰則 | 29、30、 35~38条 |
ⅱ送達手続 | 31条~34条 |
冒頭で触れた情報流通プラットフォーム対処法施行規則案等は、情報流通プラットフォーム対処法の施行に必要な内容を公表するもので、その概要は、以下のとおりです。
省令案
…大規模特定電気通信役務提供者の指定要件、「送信防止措置の実施に関する基準」の事前周知 期間の明確化、
運用状況の公表に当たっての具体的な公表項目等を規定するもの。
② 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信
役務提供者の義務に関するガイドライン案
…22条の「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」の解釈、侵害情報調査専門員の具体的な
要件等を明記するもの。
③ 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関する
ガイドライン案
…どのような情報を流通させることが権利侵害や法令違反に該当するのかを明確化するとともに、
大規模特定電気通信役務提供者が「送信防止措置の実施に関する基準」を策定する際に盛り込むべき違法情報を
例示するもの。
このうち特に重要な大規模特定電気通信役務提供者の指定要件に係る省令の主な内容について述べると、施行規則案8条に所定の以下のいずれかに該当するプラットフォーム事業者が、大規模特定電気通信役務提供者として指定されうるものとされました。
ア 当該プラットフォームを一月間に利用した者の数の1年間における平均が1000万を超えること。
イ 当該プラットフォームを利用して一月間に発信者となった者の延べ数の1年間における平均が200万を超えること。
アの基準は、閲覧によって被害者の社会的評価が低下することもあることから、利用した者を基準とし、また、少なくとも1割程度の国民に利用されることを目安として、1000万という数字を閾値として設定されたものとされています。また、イの基準は、1000万の利用者のうち、実際に投稿を行う者が約2割と推計し、また、これらの者が1か月に最低1回 は投稿するものと想定して、200万という数字を閾値として設定したものとされています。
大規模プラットフォーム事業者に係る上記基準に該当し、総務大臣に指定された大規模プラットフォーム事業者は、同法が施行される2025年5月以降、同法21条以下に定める措置を講じる必要がありますので、実務上の対応が必要となります。
一方大規模プラットフォーム事業者に該当しない一般の事業者にとっては、同法の施行以降、大規模プラットフォームにおいて行われた自社に対する名誉毀損又は信用毀損に係る侵害情報の削除を実現しやすくなることが見込まれますので、大規模プラットフォーム事業者の対応動向が注目されるところです。
(文責:近内京太)