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    ~埼玉県幸手市・杉戸町のBCPの取り組みについて~

中野 明安

地域BCPと事業者BCPの関係
~埼玉県幸手市・杉戸町のBCPの取り組みについて~

2023/07/31

地域BCPと事業者BCPの関係
~埼玉県幸手市・杉戸町のBCPの取り組みについて~

 2023年7月25日午後6時30分から、杉戸町役場(東武動物公園駅から徒歩15分)で
「街として考える災害時の医療 地域ぐるみのBCPの実際と、院長・施設長の法的責任~災害対策におけるそれぞれの役割と協同~」
というテーマで2時間お話をさせていただきました。きっかけは、防災士研修の受講者であった東埼玉総合病院に勤務されている医師の中野智紀先生(親戚ではありません。)からのご指名でした。防災士研修の受講直後にお声をかけられ、講演のご依頼をいただいたものです。

 埼玉県幸手市・杉戸町という地域はかつてカスリーン台風により大きな被害を受けた歴史を持つ地域です。また、最近(というほどでもなくなりましたが)では2011年の東日本大震災時に、宮城県富岡町からの避難民を多く受け入れ、行政や医師会、そして地域住民とが一丸となって支援に当たる活動を行っていました。その経験を活かし、かつ、避難民受け入れの経験を風化させないよう、行政や民間、そして医療介護福祉の専門機関も含む協同型の災害訓練を10年間継続して開催してきた実績がある地域です。

 また、厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムの構築に積極的に取り組んでおります。現在は、これまでの経験をもとに、具体的な地域BCPの構築を目的としたモデル事業を、厚生労働省から受託し、地域の病院や介護福祉施設などを全て含んだ取り組みを行っています。私はそれを聞いて、私が説明することなど何もないのではないでしょうか、と考えたのですが、ご担当者は、「一部の責任者が現場の熱意に対して必要性を理解せず、難渋するケースも想定されている。それを打開するためのお話をしてほしい」ということでした。あるある事例の1つかと思います。地域BCPは積み上げ式でできあがるものです。まずは住民の防災の取り組みを整理し、また、地域に根ざす事業者のみなさんのBCPの策定が重要なポイントになります。事業者のBCPは、これまで何度も申し上げているとおり、経営者(取締役)の善管注意義務(民法644条、会社法330条)を根拠規定として策定するものです。株主から付託を受けた経営者(取締役)は経営のプロとして会社の事業を継続して利益を上げて配当をし、また、会社の被る損失を極力回避して会社を存続させる義務がある、というものです。それが経営者の法的な義務です。しかし、実際には、その経営者(取締役)がその点を理解しておらず、関心がない、あるいは否定的な物言い(なんの意味があるの?会社のお金を無駄遣いしていない?)をして、担当者のやる気を喪失させる、という事例があります。

私の講演がどの程度、お役に立つかはわかりませんでしたが、この日は、

1 BCPの法的な位置付けや施設が取り組むべき根拠について、
2 BCPの策定に取り組まないと罰則があるの?
3 被災事例から学ぶ災害時の経営の在り方
4 従業員の安全配慮義務と事業継続計画の関係

などをご説明させて頂きました。

 また、介護事業者の方も参加されており、次年度から介護事業者にはBCPの策定が明確に義務として位置づけられることとなっていますが、取り組みに対するアドバイスを求められたりしていました。

 私は、お話の最後にBCPや災害対策に関する「関係者の温度差」について説明しました。温度差は例えば事業者の従業員の間でもあります。会社内の経営者と担当者にもあります。さらに地域間にもあります。その温度差の存在は、BCPの取り組みには正直邪魔なものです。しかし、私が思うに、その温度差は少なくすることはできるとしても、なくなることはないのだろうな、ということです。それは人それぞれの考え方によってしまうからです。ですから、会社内や地域内、地域間での温度差に悩むよりも、その温度差があることを前提に、逆にそれを生かした取り組みをしてはどうでしょうか、ということを提案しました。

 逆説的な説明になりましたが、参加された30名ほどのみなさんは熱心に聞いてくださり、私も、みなさんの意見を聞き勉強になりました。この地域が数年後も、すばらしいBCPの取り組みがなされていることを祈念しています。

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