ニュースレター登録

Legal Contents 法務コンテンツ

  • TOP
  • 法務コンテンツ
  • コロナ禍を経たBCPの在り方(3)
    ~行った対応と今後あるべき事業継続のための検討ポイント~

中野 明安

コロナ禍を経たBCPの在り方(3)
~行った対応と今後あるべき事業継続のための検討ポイント~

2023/06/30

コロナ禍を経たBCPの在り方(3)
~行った対応と今後あるべき事業継続のための検討ポイント~

1 概観

 2020年4月7日、特措法に基づく緊急事態宣言が発令されると、対象の各都府県では不要不急の外出を自粛するよう要請がなされました。「自粛を要請」という懐かしい表現に違和感を抱いていた時期からもう3年も経っているのですね。緊急事態宣言の発令から、全国で宣言が解除された5月25日までの間、対象地域においては、テレワークが不可能なエッセンシャルワーカーを除き、多くの企業でテレワークまたは出勤者数の制限が行われており、日本全国で同様の対応が実施されていたものと思います。ただ、事業者としては、この時期にどう対応するべきであったか、これまで経験したことがない状況に遭遇したということで、非常に悩ましかったのではないでしょうか。そこで、特にこの期間やその前後に着目して、各企業の対応を確認していきたいと思います。

2 各企業の対応

 突発的に被害が発生するリスク(地震、水害、テロなど)と異なり、「感染症」のようにじわじわとまた、いつ収束するかもわからないリスクについてどう対応するか、については、そもそも対応策に「これ!」というものはありませんでした。今回の政府の政策で際だったのは「計画的停止」とされている部分です。つまり、本来事業は何があろうと継続しようと言っていたのに、「積極的に休業する」ことが感染拡大を抑制し、結果として「事業継続には有意な意味がある」ということです。この考え方は、私が2013年に東京都の「新型インフルエンザ等対策有識者会議」で委員(社会機能部会委員)に就任したときに、医療部会の委員(ほぼ全員医師か医学系学者)とその意味について侃々諤々と議論をしたところです。事業継続をしたければ休業せよ、という医療部会の主張に対して、私たち社会機能部会(社会機能を維持することを中心に検討を行う部会)側が「そんなことできるわけないじゃん」という感じで反論したのです。結果、2020年からの新型コロナではこの医療部会の意見が政府、東京都の政策となったわけですが、この痛みは、そのときに想像していたとおり、というか遙かに深刻なものであると実感しました。「本当に私たちの社会はどうなるのだろう」と不安な毎日をすごしていました。皆さんも当然ながら、「自社だけが休業しても感染拡大を抑止することにはならないのではないか」とか、世論に反して営業継続をすることの批判的意見や、同業他社は営業継続している、同社との競争で劣勢となるなどを指摘されると、事業継続としてどのように判断することが良いのか、最大の悩みどころとなったのではないでしょうか。要はバランスなのでしょうが、この経験は、実際に積極的休業を実施した私たちの世代の貴重な教訓として語り継ぐべきでしょう。

3 対外広報のBCP的意義

 次に、日本国内で感染者が発生する時期(国内発生早期)から2020年4月7日の緊急事態宣言前(国内感染期初期)までの時期における企業の対応についてはどうでしょうか。感染者が確認された地域が本社・支社・営業所などの拠点の所在地であった場合には、営業継続可否を含め、感染拡大防止に向けた慎重な対応を検討する必要がありました。もちろん、自社の職員に感染者が確認された場合には、濃厚接触者の特定、同一拠点に勤務する職員、出入りした顧客の特定等の対応が求められます。自社の職員に感染者が確認された企業等の対応としては、感染者発生による「風評被害」という側面への対応が必要となりました。ここでは風評被害を心配して、「公表しない」という判断もあり得ましたが、逆にしっかりと自社ホームページなどで、感染者が確認されたこと、その詳細と対応策を発表した事業者が多かったと思います。特に集客事業を行う事業者の場合には当然ながら従業員のマスク着用・消毒の徹底等については、顧客に理解を求めるためにも対外公表の必要があると考えられますが、B to Bの事業が主である事業者等においても、職場内での内容について対外公表がなされていました。さらに、本社勤務の従業員のテレワークや時差出勤等、顧客に直接関係のない社内向けの対応についてまでが公表されていたことも目につきました。これは、企業の従業員への対応が顧客・取引先等から評価対象となった、昨今ならではの取り組みであると思います。これがパンデミック時における事業継続において有効であると感じましたし、今後は、感染症流行時の事業継続を考えるにあたり、こういった自社の対応内容の対外公表といった点を計画に盛り込む必要があると考えます。

4 代替手段の選定と感染対策

 なお、感染者が確認された場合には、店舗等の消毒、代替職員の手配等について迅速な対応が必要となると考えられます。今回の新型コロナウイルス感染拡大を受け、事業者では、従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、当該事業所を臨時休業するように対応していました。ただ、利用者・顧客の利便性を維持するためには、店舗等の消毒、代替職員の手配等を含めたBCPつまり代替手段を検討する必要があり、それをこの時点で整えていたかということになると、なかなかそこまでは対応できていなかったと思われます。

 自社では感染者は確認されていないものの、自社拠点の所在地で感染者が確認された企業等では、テレワークへの切り替えが行われました。従来からテレワーク環境が整っていた事業者だけでなく、インターネットの安定的な利用が可能である現時点の社会状況であったことから、また、その方法の簡便さ・効率性・合理性があることから、迅速に採用、普及したものと考えられます。

主な研究分野