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フリーランス取引適正化法

2023/06/30

フリーランス取引適正化法

●登場人物
軽照男 (かるてるお)  :中堅の映像制作会社(軽照社)の社⾧
高鳥高子(こうとりたかこ):同社の顧問弁護士


高鳥高子: 今日は懇親会にお招きいただいてありがとうございます。コロナ禍以降、一緒に飲む機会がなかったので久々にご一緒できてうれしいです。

軽照男 : 僕も高鳥さんと久しぶりに飲めてうれしいよ。ところでさ、最近、広告代理店のクリエイティブ職に勤めている友人の息子Aが、副業解禁になったから、うちの映像制作をぜひとも一部引き受けたいといってきてくれてるんだよね。うちとしても猫の手も借りたいくらい人手が足りないところだし、大企業のクリエイティブ職の人に高くないお金で映像制作を手伝ってもらえるならありがたい話だよね。大企業の副業解禁万歳だよね。

高鳥高子: そんないいお話があるんですね!ただ、Aさんとの取引の態様によっては、2024年11月頃に施行される見込みの新しいフリーランス取引適正化法(※特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の略称)の対応が必要かもしれないですね。

軽照男  : フリーランス取引適正化法…?フリーランスって言葉はもちろん知ってるけどそんな法律は初めて聞いたな。

高鳥高子: 「特定受託事業者」(法2条1項)に該当する事業者に業務を委託する場合には下請法と同じような規制が課されたり、労働者に近い保護を与えて、いわゆるフリーランスと呼ばれるような立場の弱い事業者を保護しようとして制定されたのがフリーランス取引適正化法です。

(厚労省のHPを見せる(001101551.pdf (mhlw.go.jp)

フリーランス取引適正化法の適用がある「特定受託事業者」とは、具体的にはこの2つの場合です。

1. 「業務委託」の相手方である「事業者」の個人であって、「従業員」を使用しないもの(法2条1項1号)
2. 「業務委託」の相手方である「事業者」の法人であって、1名の代表者以外に役員がおらず、かつ、「従業員」を使用しないもの(同項2号)


軽照男 : なんか、よく分からないけど、これを見る限りではかなり沢山の場合にあてはまってきそうだけど…。うちの映像制作をたまに手伝ってくれてる友人の奥さんのBさんももしかしたらこれに当たったりするのかな?

高鳥高子: 具体的な業務内容によりますがその可能性は十分ありますね。
フリーランス取引適正化法の「業務委託」の定義は、「事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成または役務の提供を委託すること」とされていて(同2条3項)、かなり抽象的で広範囲の委託業務をカバーしているので、多くの個人事業者が「特定受託事業者」に該当する可能性があります。
あとは、個人名で事業を行っていなくても、代表者以外に役員がいない、1人法人のような場合には「特定受託事業者」に該当するので、そもそも、今事業を委託している人が「特定受託事業者」なのかを正確に把握することが難しいと考えられています。

軽照男 : え、じゃあAさんやBさんがその「特定受託事業者」に該当するとして、どういう対策が求められるの?

高鳥高子: (再び厚労省のHPを見せながら)具体的には、軽照社が「特定受託事業者」に業務を委託する場合には、このような義務を委託者側が負うことになるんです。

       ※委託者側の義務

  下請法と同旨の規制 (第2章)給付内容等の明示・書面交付義務(3条)
60日・30日以内の報酬支払義務(4条)
(継続的業務委託をする場合)報酬減額、買いたたき等の禁止(5条)
  労働者類似の保護 (第3章)契約解除・不更新の30日前予告義務(16条)
就業環境問題に対する相談・対応体制整備義務(14条)
妊娠、出産、育児介護に対する配慮義務(13条)
募集情報の的確表示義務(12条)

この中でも特に注意が必要なのは、60日・30日以内の報酬支払義務です。内容としては、委託者がフリーランスに業務委託をした場合には、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内に報酬を支払う義務があります(法4条1項・2項)。

軽照男 : それなら、うちだって映像制作の下請業者を使うこともあるから一応は対策してるよ。

高鳥高子: 私もその時ご相談を受けていたので、軽照社が下請法の対策をしていることは存じ上げてますよ。たしかに、この規制の内容自体は下請法2条の2とほぼ同じですので、他にも下請先を使っている軽照社では、一応対策自体はしているんですよね。

ただ、下請法では適用範囲外だった、当社のHP作成や社内で使用するシステム関係の委託先も、フリーランス取引適正化法では対象となり得ますし、それに下請法にはない規制として、例えば、C社(大手広告代理店、元委託者)→軽照社(再委託者)→フリーランスの映像制作のAさん(再受託先)への再委託のような取引があった場合、規制が上乗せされているんですよ。より具体的には、軽照社が当該業務が再委託であることや元委託者について一定の情報をAさんに明示した場合には、C社から軽照社への支払期日から起算して30日以内にAさんに対し報酬を支払う義務が課されるんですね(法4条3項、4項)。

さらに、例えば、軽照社がC社から前払金をもらっていたような場合には、Aさんに対して必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮も求められます(同条6項)。

軽照男 : えー…、それは困ったなあ。じゃあさ、もし、フリーランス取引適正化法?の義務に違反しちゃった場合ってかなりまずいの?

高鳥高子: 軽照社に60日・30日以内の報酬支払義務の違反行為があった場合、例えばですけど、公取から申出・助言指導(法6条、22条)→勧告(法8条)→立入検査(法11条)→勧告に従う旨の命令(法9条1項)と段階的な措置が執られ、最終的に命令に違反したときには50万円以下の罰金(法24条1号)の刑事罰が科されるという可能性があります。
ただ、あくまで段階的な措置ですので、違反したからすぐに刑事罰となるという訳でもないですが、企業としての信頼の問題もありますし、フリーランス取引適正化法上の義務違反に民事上の効力が生じるかどうかも議論されているところです。
結局、委託先にAさんやBさんのような零細な事業者が想定される場合には、もしも「特定受託事業者」だった場合に備えて、施行前に軽照社でも一定のフリーランス取引適正化法の対策をすることが望ましいと思います。

軽照男 : そうか。営業上手だな。今度、Aさんと契約を結ぶにあたってせっかくだから高鳥さんにフリーランス取引適正化法について、うち向けの対策をお願いするよ。

(文責:経済法研究チーム)

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