全世界的に感染拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2023年5月8日から、感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上は、第5類感染症に分類が変更となり、入院措置などの行政の強い関与を求めた第2類感染症の取り扱いがなくなったことから、事業者においても、感染対策と事業継続との関係では大きな節目を迎えたと言えます。この3年にわたる事業活動の新型コロナ対応は、重大な事業リスクへの対応をどのように対処するかを迫られたものであり、その成果はしっかりと教訓として次の世代へ伝えられるべきです。
そこで、今後、いくつかの事業の新型コロナに対する事業継続の試みを記載してゆきたいと思います。まずは、飲食事業者の新型コロナ対応(BCP)についてです。
集客事業、特に飲食業・旅行関連事業は新型コロナ感染症まん延により特にダメージを大きく受けたと思います。統計調査でも、飲食店の倒産件数は過去最多のペースだったようですね。「新型コロナウイルス関連倒産」(法人および個人事業主)は、2020年11月時点で、全国で731件あることが判明しています。(法的整理651件(破産617件、民事再生法30件、特別清算4件)、事業停止80件。業種別上位は「飲食店」(113件)、「ホテル・旅館」(67件)、「アパレル・雑貨小売店」「建設・工事業」(各48件)、「食品卸」(37件)、「アパレル卸」(26件)など(帝国データバンク公表情報)。)
新型コロナという感染症への治療薬やワクチンが開発されていないという状況下では、まずは感染拡大防止を図るために、密集を回避するという政策は否定できないところかと思いますが、その政策が営業時間の自粛、酒類の販売時間制限などで大きな営業上のインパクトが発生しました。
その一方で、テイクアウトの実施により売上げが昨年よりも増加したという飲食事業者もありました。日本政策金融公庫が2020年10月に実施した「飲食店のテイクアウト・デリバリーサービス等に関する消費者調査結果」では、
<テイクアウト>
✓ 飲食店のテイクアウトについて、「利用したことがある」との回答が約8割に上った。
✓ 飲食店のテイクアウトの利用頻度について、「月に1回以上」との回答が約6割となった。
✓ 利用者におけるコロナ収束後のテイクアウトの利用意向は、「増えると思う」が約2割、「変わらないと思う」が約6割となった。
<デリバリーサービス>
✓ 飲食店のデリバリーサービスについて、「利用したことがある」との回答が約6割となった。
✓ 飲食店のデリバリーサービスの利用頻度について、「月に1回以上」との回答が約4割となった。
✓ 利用者におけるコロナ収束後のデリバリーサービスの利用意向は、「増えると思う」が約2割、「変わらないと思う」が約6割となった。
✓ 飲食店のデリバリーサービスにおいて重視するポイントは、「配達無料」、「安価」、「クーポン・キャンペーン」など、“お得感”を重視する回答が多かった。
✓ 未利用者において、飲食店のデリバリーサービスを利用しない理由は、「飲食店で食べる方がよいから」との回答が最も多かった。
<オンライン飲み会>
✓ オンライン飲み会について、「開催・参加したことがある」との回答は約2割に留まった。
✓ 飲食店での飲み会と比べた満足度について、「飲食店での飲み会の方が満足」との回答が過半数を占めた。
ということです。
つまり、飲食店を利用したい人たちは、可能ならば飲食店での飲食を希望するが、それが制約されるのであればテイクアウト、デリバリーサービスを利用することで「代替」する、ということかと思います。その結果が、テイクアウト利用率80%であるにもかかわらず、テイクアウトの利用意向は、「増えると思う」が約2割、「変わらないと思う」が約6割となった。デリバリー利用者の考えもほぼ同様ということからすると、これはBCPを考えるにあたり、非常に重要な示唆を含むものと考えます。つまり、飲食事業者が店舗営業による事業継続が一時的(これが数ヶ月か数年かは不明)に困難となったときの「代替戦略」としてテイクアウト、デリバリーサービスへの力点の切り替えについては、積極的でよいと思われるということであり、また、平常時から事業継続の一環としてテイクアウト、デリバリーサービスを営業方法として採用しておくことが良いのではないかとことです。しかし、利用者の本音は、店舗での飲食ということにあるという点から、そのバランスをしっかりと状況を見極めて、対応を考える、という柔軟な方針を維持する、ということではないでしょうか。
BCPにおける計画の根幹は「代替手段」の準備であり、今回のリスクへの対応として、店舗飲食事業者がテイクアウト、デリバリーを的確に実施することが事業継続の重要な教訓としてあげられる好例と思います。無駄な支出を抑えて、実現可能な代替事業(形態変更を含む)の模索が重要なのだろうと思います。 店舗営業とテイクアウト、デリバリーサービスへの切り替えのバランスによる事業継続は、単に飲食事業における教訓にとどまることなく、他の事業者にも参考になる例であると感じています。
主な研究分野
- 弁護士:
- 中野 明安