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労働法判例ヘッドライン

2023/04/28

労働法判例ヘッドライン

 今回ご紹介する裁判例は、持株会社の労働組合法上の使用者性が争点となった東京高等裁判所令和4年1月27日判決(労働判例1281号25頁)です。

 持株会社は、子会社の従業員との間で労働契約を締結しているものではありませんが、労働組合法7条の「使用者」に該当する場合には、持株会社に団体交渉応諾義務が生じ、正当な理由なく団体交渉を拒むことができないこととされています(同法7条2号)。

1 労働契約を締結していない場合であっても、労働組合法7条の使用者となりうる

 労働組合法7条の「使用者」について、最高裁判所は、平成7年2月28日に、以下のような判決をしています(民集49巻2号559頁「朝日放送事件」)。

 すなわち、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。と判示しています。

 上記の最高裁判決では、労働契約を締結していない場合であっても、労働組合法7条の使用者として、団体交渉応諾義務を負う場面があり得ることを示していますが、具体的事案としては、子会社の従業員との関係で持株会社の使用者性を論じたものではありませんでした。

2 本子会社の従業員との間で労働契約を締結していない場合であっても、労働組合法7条の使用者となりうる

 今回ご紹介している東京高等裁判所令和4年1月27日判決は、子会社の従業員との関係で持株会社の使用者性が問題となった事案ですが、上記最高裁判決を参照して、「労組法は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進するために、労働者が自主的に労働組合を組織し、使用者と労働者の関係(労使関係)を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること、その他の団体行動を行うことを助成しようとすることを目的とし(1条)、同法7条は、労働者の団結権等の侵害に当たる使用者の一定の行為を排除、是正し、もって正常な労使関係を回復することを目的として設けられたものである。そうすると、雇用主以外の事業主であっても、上記観点から集団的労使関係の一当事者となるべき者、すなわち、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である」としています。

 つまり、子会社の従業員との間で労働契約を締結していない場合であっても、労働組合法7条の使用者として、持株会社が団体交渉応諾義務を負う場面があり得ることを述べています。

3 否定例

 ただし、上記東京高裁判決は、「親会社に当たることから直ちに、子会社の従業員を構成員とする労働組合との労働協約の対象となる、子会社の従業員の基本的な労働条件等について、子会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるということはできない」とし、「一口に親子会社といっても、親会社と子会社及びその従業員との関係は様々であるから、親会社にについて、上記のような地位にあるといえるかについては、親子会社それぞれの事業・経営の状況、役員の選任状況、子会社の従業員の労務管理・労働の実態等を個別に考慮して検討する必要がある。」とした上で、同事件の具体的事実関係を考察の上、以下のとおり、その使用者性を否定しています。

 持株会社として、グループ全体の経営戦略や事業計画を策定して、子会社に対して経営指導等を行っていたことが認められ、・・・子会社の経営に対し、相当程度の影響力を有していたものの、子会社は、それぞれ持株会社とは別法人として別個の異なる事業を行い、それぞれ取締役会を組織して企業活動の管理及び運営を行っていたものであり、持株会社の役員を兼務している役員が同社の利益を優先させたような事情はないし、持株会社の子会社の経営に対する関与が、子会社に対する経営戦略的観点から行う管理、監督の域を超え、その従業員を自己の指揮命令下で業務に従事させたり、その採用・配置や業務担当、勤務時間、待遇等を日常的に把握し、それらを左右したりするようなものであったことを窺わせる証拠はないとして、当該事案においては、持株会社について、子会社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとは認められない、と判示し、持株会社に団体交渉応諾義務を認めませんでした。

4 肯定例

 もっとも、上記東京高裁判決の述べるとおり、持株会社が子会社の従業員との関係で使用者性を有するかどうかは、親子会社それぞれの事業・経営の状況、役員の選任状況、子会社の従業員の労務管理・労働の実態等を個別に考慮の上判断されるものであり、上記東京高裁判決の事案とは逆に、子会社には管理部門がなく、持株会社が子会社の管理業務を受託し、具体的には、子会社の雇用契約の内容の改定、従業員に不利益となる事項について当該従業員の同意なしに変更、決定しないことを全従業員に通達すること、雇用契約書、就業規則の協議については、持株会社の人事部の次長等が決裁権限を有していた事案において、持株会社の使用者性を認めた事案もあります(東京地方裁判所平成28年4月26日判決判例時報2320号139頁)。

 持株会社制度を採用する場合に、子会社にどの程度の権限を与えるのかはグループ戦略上重要なことで、各社それぞれ悩まれているところかと思いますが、上記の2つの下級審裁判例からは、人事面からも、親会社から子会社に対するグリップが強くなればなるほど、子会社従業員との関係では、持株会社に使用者性が認められ、団体交渉応諾義務が認められやすくなる傾向にあることが読み取れます。

(文責:川俣尚高)

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