1 ステルスマーケィングに関する検討会の報告書(案)の公表
本年12月2日、消費者庁にて開催されている「ステルスマーケティングに関する検討会」より、「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書(案)」(以下「本報告書案」といいます。)が公表されました。
一般に「ステルスマーケティング」(いわゆる「ステマ」)とは、特にSNS上で展開される広告で、広告主が自らの広告であることを隠して行うものをいいます。ステルスマーケィングに関する検討会は、このステルスマーケティングへの対応を検討するために、本年9月から消費者庁において開催されています。特に、「不当景品類及び不当表示防止法」(以下「景品表示法」といいます。)の観点から、企業が自社商品に関して行い、又は、第三者に行わせる、SNSを使った投稿、ECサイトのレビュー投稿、アフィリエイトプログラム、プラットフォーム上の口コミ投稿などへの規制を議論対象としています。
同検討会は、本年11月29日までに7回開催した上、この問題についての一定の結論として本報告書案を公表しました。
本報告書案は、インターネット広告市場の概要やステルスマーケティングの実態などについて触れたうえで、ステルスマーケティングに対する景品表示法による規制の必要性について検討し、規制が必要であると結論付けたうえで、その具体的な規制の在り方・内容についての提言を行っております。
以下、本報告書案が提言する、ステルスマーケティングに対する景品表示法による具体的な規制の概要をご紹介したいと思います。
2 報告書(案)の提言~ステマに対する景品表示法による規制の概要
まず、本検討会が規制対象として検討しているのは、「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと」であり、例えば、広告主が投稿者との関係性を明らかにするなど広告であることが一般消費者に分かるものであれば、引き続き同様の広告・宣伝行為を行うことは妨げられないとしております。
また、現行法においても、表示に優良誤認表示や有利誤認表示がある場合には、ステルスマーケティングに対する規制が可能であるため、本検討会が規制対象として検討しているのは、現行法では対応できない「優良誤認表示、有利誤認表示のどちらにも該当しない表示」であるとしています。
以上を前提に、諸外国では既にステルスマーケティングに対する法規制が存在することにも鑑み、「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為」を規制するための明確な規制が景品表示法において必要であるとしています。
そのうえで、具体的な規制方法として、本報告書案は、景品表示法第5条第3号の指定告示による規制が妥当であるとしています。他方で、事業者の予見可能性を高めるための運用基準等を策定すべきであるとしています。
本報告書案では、具体的な指定告示案も提示されており(35頁)、
を景品表示法第5条の不当表示として新たに規制することを提言しています。
本報告書案は、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」が広告のことであり、「一般消費者が当該事業者の当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」が、広告であることを隠す、すなわち一般消費者に広告であることが分からない表示のことであるとしています。
もっとも、指定告示案からは「広告」に限定する趣旨は必ずしも読み取れず、上記指定告示案のとおり制定されるか、限定的な定めになるかは注視が必要ですが、いずれにしても、事業者の皆様にとっては、運用基準が実務的には重要になってくると思われます。本報告書案においては、運用基準の方向性として、かなり具体的な例も紹介されており、参考になると思われますので、ご覧になって頂ければと存じます。
例えば、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」(事業者の表示)となるかについては、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合であるであり、これには「事業者が第三者をして行わせる表示」も含まれるとしたうえで、たとえば、以下のような例を紹介しています(36頁)。
事業者が「表示内容の決定に決定した」と認められる場合には、例えば、以下のような場合が考えられる。
✓ 事業者が第三者(著名人やインフルエンサー)に対して、当該第三者のSNS上に当該事業者の商品又は役務に係る表示をさせる場合。
✓ ECサイトに出店する事業者が、仲介事業者や当該事業者の商品の購入者に依頼して、当該商品について、ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
✓ 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示(比較サイトやポイントサイト等における表示も含む。)を行う際に、アフィリエイターに委託して、当該事業者の商品又は役務について、表示させる場合。 ・事業者が仲介事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、当該事業者の競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した低い評価を表示させる場合。
本報告書案は、本年12月2日~15日にかけてパブリック・コメントに付されており、その結果を受けて12月27日にも検討会が開催される予定となっております。今後は、年明け以降、当該パブリック・コメントの結果も踏まえた報告書が公表されるものと想定されます。
その規制範囲によっては、企業がSNS等において行う広告へ与える影響が大きいと考えられますので、引き続き注視が必要です。
(弁護士 近内京太・荒井康弘)