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    トランスジェンダーのトイレ自由利用に対する制限の違法性が否定された例

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労働法判例ヘッドライン
トランスジェンダーのトイレ自由利用に対する制限の違法性が否定された例

2022/09/30

労働法判例ヘッドライン
トランスジェンダーのトイレ自由利用に対する制限の違法性が否定された例

今回は、トランスジェンダーのトイレの自由利用に対する制限の違法性が否定された例(経済産業省事件(東京高裁令和3年5月27日)判決(労働経済判例速報2463号))をご紹介いたします。

1 事案の概要

 一審原告は、経産省に勤務する国家公務員であり、性同一性障害者特例法2条に定める性同一性障害者ですが、性別適合手術を受けておらず戸籍上の性別変更をしていないトランスジェンダーの方です。一審原告は、経産省による同省庁舎内の女性用トイレを自由に使用することができないことについて、人事院に対して、戸籍上の性別及び性別適合手術を受けたかどうかを問わず他の一般的な女性職員との公平処遇を求める要求をしましたが、当該要求は受け入れられないとの判断(本件判定)がなされました。この本件判定に対して、本件判定は違法である旨主張して、その取り消しを求め(第1事件)、トイレの自由利用ができないことが経産省職員等による職務上の注意義務違反であるとして1652万円余の慰謝料等の請求をしました(第2事件)。
 
 原審は第1事件については、「職場の女性トイレを自由に使用させること」との要求を認めないとした処分を取り消しました。また、第2事件につき、被告に対して132万円余の慰謝料の請求を命じました。これに対して不服とした両当事者が控訴。

2 控訴審の判決

 本件については、高裁で原審判決が取り消されて、第1事件の請求が棄却されました。また、第2事件につき認容額が11万円に減額されたものの一連の対応の中で行われた発言内容に職務上の注意義務違反があるとして賠償が求められました。

 本件事件において裁判所は「性別は社会生活や人間関係における個人の属性の1つとして取り扱われており、個人の人格的存在と密接不可分なものであることや、性同一性障害者の社会的な不利益を解消するために、制定された性同一性障害者特例法の立法趣旨に鑑みれば、自らの性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、法律上保護された利益である」としました。ただ、「一審原告は、経産省に勤務する公務員として国家公務員法の適用を受け、同法98条1項が「職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定するなど、民間企業とは異なる国家公務員としての法律関係が適用される。そのため、民間企業・労働者と同様の違法性の判断基準で考えるべきとする一審原告の主張を採用することはできない。」として、トイレの当該利用制限について経産省の対応が是認された結果となっています。

 原審及び控訴審ともに、原告が自らの性自認に即した社会生活を送ることの権利性や要保護性を積極的に肯定しており、結論が異なったのは、公務員の関係における権利利益制限の違法性判断基準の違いによるものと考えられます。したがって、民間企業の場合には、使用者は性的少数者の権利利益を適切に認識し、職場内外の現状をしっかりと具体的に把握した上で、対応を模索することが肝要と思います。

 なお、慰謝料についてですが、「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」との発言が、経産省の対応方針から明らかに逸脱しており、当該発言に注意義務違反、国賠法上の違法性が認められて賠償が命じられています。このような発言自体についても留意をしなければならないことが指摘されるものと思います。

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