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    あれれ?の調査結果に・・・

中野 明安

内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果が発表されました。
あれれ?の調査結果に・・・

2022/05/31

内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果が発表されました。
あれれ?の調査結果に・・・

 2年に一度調査が行われ、翌年3月には公表されていた表記の実態調査結果ですが、昨年の調査については、なかなか公表されず待ちに待っていましたが、やっと、内閣府は5月18日に、「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」についての結果を発表しました。この調査は、2007年度から2年に一度実施しているものです。
 私の関心事は、この2年間でBCP策定に取り組む企業がどの程度増えたのか、ということでした。

https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/index.html
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/gaiyou_210516.pdf
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/chosa_210516.pdf

 調査結果によりますと、大企業のBCPの策定状況は、策定済みが前回の令和元年度から2.4%伸び70.8%に。逆に策定中は0.7%減り14.3%で、策定済と策定中を合わせた割合は前回とほぼ同じ85.1%となっていました。なお、政府は2020年までに大企業でのBCP策定率について100%を目標としていましたので、目標達成とは言えない、という状況かと思います。一方、中堅企業はどうかと言うと、これも、策定済みが40.2%(前回34.4%)、策定中が11.7%(前回18.5)%で、策定と策定中を足した割合は前回と同様に「半分くらい」(かえって減っている)の策定状況でした。

 業種別では、「金融・保険業」の策定率が81.6%と最も高いようです。2位は製造業(52%)、最も低いのは小売業で30.5%という結果です。私は、以前に日本小売業協会で「小売業のBCP」を策定することをテーマにして2年間、協会の会員企業の皆さんと小売業のBCP策定について取り組んで来ました。参加する企業から「小売業は社会生活のインフラです。自分たちが活動をしなければ商品が届かず社会生活が危機に直面してしまいます。」、「お客様から「来店していて助かった」と言われるようになろう」という思いを伝えられ、その考え方に感動していたのですが、・・・今回の結果を見ると、あれれ?という印象です。

 また、過去の災害時にBCPが役に立ったかとの質問では、 「とても役に立った」と「少しは役に立ったと思う」を合わせても、約5割にとどまっていました。

 さらに、過去の災害で被害を受けた際に有効であった取り組みは何ですか、という質問について、大企業では「安否確認や相互連絡のための電子システム(災害用アプリ等含む)導入」(57.2%)、「社員とその家族の安全確保」(54.5%)、「リスクに対する貴社の基本的な対応方針の策定」(51.5%)という順になっています。また、中堅企業を合わせた全体では「社員とその家族の安全確保」(45.2%)、「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入・買増し」(40.1%)、「リスクに対する貴社の基本的な対応方針の策定」(37.0%)が上位ランキングされています。ここで注目したいのは、過去の災害で被害を受けた際に有効であった取り組みとして「BCP」という回答は非常に少ないことです。この質問への回答は選択式(複数回答可能)となっていて、確認すると「BCP策定・見直し」もその選択肢に入っています。しかし、回答は、「BCP策定・見直し」と回答した企業は、18.1%と全体の中でもかなり低いポイントとなっています。さて、果たして、BCPは本当に役に立たなかった(今後の災害にも役に立たない)のでしょうか。

 ちょっと悩ましいですね。この調査が導く方向性は何なんだろうと感じてしまう私です。

 なお、この点については、正式な内閣府の解説はありませんが、「なぜ、BCPの策定や見直しは、災害時に役だったと感じないのか」という問いに言い直して、回答を考えてみますと「災害に直面した際は、BCPの策定・構築プロセスといった取り組み全体についての成果は感じにくく、個別の対策1つ1つが奏功したかどうかを評価しがちになる。」ということかと考えます。したがって、私見ですが、「災害時に有効である取り組みの1つとしてBCPがあることは、この結果からは否定されない」と考えます。
 また、確実に言えることは、BCPは事業継続力を高める取り組みであり、その成果として、個々の取り組みである「備蓄」や「安否確認」がより機能しやすくなります。企業が事業継続というテーマに正面から取り組むということから、防災などの基本的な対策に取り組むことが容易になるからであり、その結果として防災の効果が見えやすくなるということが言えます。

 私は、BCPの根幹となる考え方は、「被害軽減」と「代替手段」であると説明しています。BCPは「防災+α」とも説明しています。ということであれば、BCPの取り組みの効果を感じやすくするために、まずは、「BCPの一環として個別の防災活動があることを明示して、これに取り組む」ことが良いのだろうと思います。企業の取り組みに見えやすい「防災」という観点をしっかりと位置づけることが、BCPの普及促進に重要な影響を与えることとなると考えます。  
 さて、2年後の実態調査に期待しましょう。

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