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「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」の策定について

2022/04/28

「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」の策定について

軽照男 : 高鳥君、近年、(大手企業である)当社がスタートアップに出資する案件が多くなってきたな。

高鳥雄三: そうですね。事業部から、スタートアップへの出資を検討しているとのことで、投資契約書や業務提携契約書の確認を求められることが多くなってきましたね。
革新的で魅力的なサービスやビジネスを行うスタートアップも多いですし、当社としても、単に業務提携だけをするのではなく、出資と業務提携を組み合わせることで、スタートアップの事業を育成して、当社の事業拡大などを狙っているのだと思います。まさに今も、当社とスタートアップとの間で投資契約書の交渉をしているところで、法務部も忙しいんですよ。

軽照男 : 投資契約書の交渉か~。ただ、当社はお金を出す立場だし、スタートアップには法務部が存在しないことも多いから、当社にとことん有利なように契約条項を決められるんじゃないのかい。
スタートアップへの出資は、今後の事業の見通しがつかないこともあるし、出資の目的以外に出資金を利用されたりしたら困るからな、契約違反がなされた場合に少しでも当社の損失を減らせるような規定を盛り込むんじゃ!あとあと、・・・

高鳥雄三: たしかに、社長がおっしゃるとおり、大手企業とスタートアップでは、大手企業の交渉力の方が強い事案の方が多いと思います。
投資契約書の条項についても、契約違反の場合の損害賠償請求だけでは損害額の算定や立証が困難な場合が多いので、投資契約等の実効性を確保するために、株式買取請求権を定めることが多いです。また、経営株主等の個人に対しても買取請求が可能な株式買取請求権を設定する例もありますね。
ただ、最近、公取委と経産省の連名で「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」が出されたのは知っていますか?

軽照男 : 君も詰めが甘いのぉ。名前が間違っておるぞ。令和2年11月に公表された「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」の内容を踏まえて、令和3年3月29日に策定された「スタートアップとの事業連携に関する指針」のことじゃろ。

高鳥雄三: 詰めが甘いのは社長ですね~(ドヤッ)
たしかに、令和3年3月29日に「スタートアップとの事業連携に関する指針」が策定されましたが、その後、出資に係る取引慣行の重要性に鑑みて、成長戦略実行計画(令和3年6月18日閣議決定)において、スタートアップと出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインが策定されることになったんですよ。そして、それを受けて、公取委と経産省は、「スタートアップとの事業連携に関する指針」を改正する形で、令和4年3月31日に「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を策定したんですよ。

軽照男 : そ、そうだったのか~。でも、改正する形で策定されたわけだから、従前の内容と大した違いはないのだろう。

高鳥雄三: いや、「スタートアップへの出資に関する指針」という項目が丸々一つ追加されているんですよ。
具体的には、①営業秘密の開示、②NDA違反、③無償作業、④出資者が第三者に委託した業務の費用負担、⑤不要な商品・役務の購入、⑥株式の買取請求権、⑦研究開発活動の制限、⑧取引先の制限、⑨最恵待遇条件について、それぞれ、独占禁止法の考え方等をまとめた上で、解決の方向性等が記載されていますよ。

軽照男 : さっき話に出た、株式取請求権も挙げられているじゃないか。株式買取請求権を投資契約に設定することもまずいのか。

高鳥雄三: 必ずしもそうではありません。株式買取請求権については、具体的に、㋐買取請求権を背景とした不利益な要請、㋑著しく高価な価額での買取請求が可能な買取請求権の設定、㋒行使条件を満たさない買取請求権の行使、㋓個人への買取請求が可能な買取請求権に区別した上で、問題点をまとめています。
他方で、スタートアップと十分な協議の上で、重大な表明保証違反や重大な契約違反の場合に、株式買取請求権を行使できるようにすることは問題ないとされています。

軽照男 : 少し安心したわい。
ところで、さっき君は、経営株主等の個人に対しても買取請求が可能な株式買取請求権を設定する例もあると言っていたが、㋓個人への買取請求が可能な買取請求権については、どのような考え方がなされているのじゃ。

高鳥雄三: この論点については、独占禁止法上の考え方が記載されているわけではなく、競争政策上の考え方として、株式買取請求権の請求対象から経営株主等の個人を除いていくことが望ましいとされています。もっとも、「発行会社からの買戻しを確保するための減資プロセスへの経営者の協力義務や、経営株主が会社に損害を与えたことが明確な場合の株主代表訴訟プロセス、法人格否認の法理の適用の考え方など、実務上の整理は進めていく必要がある。」と記載されており、今後の実務の動向が気になるところですね。

軽照男 : なるほどなぁ。たしかに、いくら経営株主とはいえ、法人と個人は別人格だからな。

高鳥雄三: この指針では、さっき言ったような複数の論点が取り上げられているので、スタートアップと投資契約書の交渉をするに当たっては、当社が独占禁止法等に違反しないように、この指針を熟読する必要があると思います。
また、スタートアップに関する法分野はまだ成熟していない分野ですから、今後もこの指針が改正されたり、新たな指針が策定される可能性も否定できないでしょうね。社長も、新たに策定された指針までは知らなかったようですが、情報のアップデートは必須ですよ。

軽照男 : なるほどなぁ。社長たるべきもの、情報のアップデートには常にアンテナを張っておかねばな。新しいアンテナを買いに行かなきゃいかんてな。

高鳥雄三: 冗談を言う暇があったら、指針を熟読してくださいよ(苦笑)

(文責:経済法研究チーム)

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