一般社団法人日本渡航医学会と公益社団法人日本産業衛生学会とが2020年2月以降継続して共同文書として「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」を公表してきましたが、今般、同補遺版2(オミクロン株・職域接種のQ&A)」を公表することとなりました。今回は、その一節を一部転載してご紹介をさせて頂きます。
オミクロン株が主流の第6波による急激な感染拡大は、医療や経済活動に大きな影響を与えました。感染者の急増に伴い、多くの従業員が自主隔離を余儀なくされる事態になりました。在宅勤務ができない職場では人員不足が事業の継続に大きな影響を及ぼし、出勤できる従業員に対する業務負荷の増加が課題となりました。今般、まん延防止等重点措置は全面解除となりましたが、これまでの対策を教訓として、今後第7波やその後の新感染症などへの準備を検討しておくべきでしょう。このメルマガでは、対応紙面の都合で、業務継続と労務管理に関する注意事項の1つについて記します。なお、本項を含む「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド(補遺版2)(オミクロン株・職域接種のQ&A)」は両学会のホームページにまもなく公表される予定です。
Q オミクロン株のように感染者が爆発的に増加する変異株の流行に対して、事業者はどのような対策を立てておくことが望ましいでしょうか?
A 事業者は、法律上、従業員や顧客・利用者に対する安全配慮義務があります。労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」としています。したがって、これは感染症一般に言いうることですが、事業者は事業を行うことにより感染を拡大させてしまう可能性があることを常に認識しておくべきです。また、事業を行うことにより従業員は自らが感染する立場になると同時に感染させる立場にもなるという認識も重要です。従業員の皆さんにはそのような認識を有して頂くべきであり、そのための教育の機会を設け、必要な感染対策について協力をしてもらうことが重要となります。
一方、事業者は職場内の感染対策を万全に実施すると共に、事業(業務)継続に関する意識を高めることが重要です。これは感染対策と矛盾するものではなく、感染拡大で従事できる従業員が減少した場合でも感染対策を実施して安全に業務を継続するための方策(事業継続計画(BCP))を検討しておくということです。例えば、従事する従業員が少人数となった場合の業務手順の変更、優先業務・休止業務の選択、協力会社との連携・合理化の検討、在宅勤務制度の導入など働き方の仕組みを見直すなどをして事業(業務)を継続し、さらには顧客への説明などにも配慮を欠かさずに、経営を維持することが必要となります。つまり、如何に安全対策が重要であったとしても、安全対策を実施した結果、経営が成り立たなくなってしまっては本末転倒です。事業(業務)継続は「善良な管理者としての注意義務」(善管注意義務、民法644条、会社法330条)としての経営者に課された義務だからです。
たしかに、安全対策と経営維持をどのように両立させるかは各事業者の事業規模、事業内容等により様々であり、判断が一律にはできない点が難しいところですが、各事業者のこれまでの知見を十分に活用して、どのように事業(業務)を継続することが社会や顧客・利用者から求められているかという観点で検討することが望ましいでしょう。