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知財判例ヘッドライン vol.97

2025/10/31

知財判例ヘッドライン vol.97

 今回は、皆様の家でも使っているかもしれないディスペンサーボトル(シャンプーボトル)の意匠権に関する裁判例のご紹介です。

 原告が下記のような意匠(本件意匠)に係る権利を有していたところ、被告がECサイト等で製造販売していた商品の意匠(被告意匠)が①同一又は類似である、②本件意匠と利用関係にある、として製造販売の差止めや廃棄、損害賠償請求を求めた事案です。

原告の意匠
被告の商品の形状

 意匠権侵害事件においては、意匠の要部の認定が行われ、要部が共通している場合には、類似となり、要部が相違している場合には非類似となるのが通常です。
 今回の事件において、裁判所は、本件意匠の登録出願時点において、液体用ディスペンサーにおける

① 縦長角丸正方形筒状の容器本体を有する構成
② 上面に開口を有する縦長角丸正方形筒状の容器本体及び同開口に合わせた角丸正方形状の蓋を有する構成
③ 本体の背面に略全体にわたってマグネットを貼り付ける構成

はいずれも公知であると認定したうえで、
「本件意匠の使用態様が、浴室等の壁面に取り付けるものであることからすれば、本件意匠の需要者は、容器本体の正面のみならず、マグネットを含めた容器本体の背面(壁取付面)の具体的な形状に最も注意が惹かれるというべきであるところ、正面の構成は上記のとおり公知であるから、本件意匠の要部は、マグネットを含めた容器本体の背面(壁取付面)」であると判断しました。

 原告は、本件意匠が、一般的な商品とは異なり、フタも着脱できる構成とすることで、容易にシャンプー等を補充し、詰替用の袋をそのまま装填できるようにしたことにより、詰替時に容器内部の洗浄を不要したもので、「着脱可能なフタを備える構成」は要部であると主張していました。
 しかし、裁判所は、「使用に係る物品等の性質、用途、使用態様、公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して認定する」という一般的な考えに沿って上記のような判断をしました。

 つづいて、裁判所は、本件意匠と被告意匠の類似について、
本件意匠では、縦長長方形シート状(横・縦比率約 1 対 2.9)のマグネットが同面の略全体にわたって配置されており、需要者にシンプルですっきりとした印象を与えるものといえる。これに対し、被告意匠では、縦長長方形シート状(横・縦比率約 1 対 3.3)のマグネットに加え、その上下に横長長方形状の防滑シートが各1枚接して配置されている。マグネットと防滑シートを組み合わせた形状は縦長長方形状ではなく「I字」状となっており、需要者には、これらが上記面から突出していることもあって、凸凹部のあるしっかりとした形状であるとの印象を与えるが、構成が複雑となっていることから、すっきりとした印象は受けないといえる」 という理由を述べ、「本件意匠と被告意匠は、要部において顕著な相違があり、…共通点を考慮しても、両意匠の共通の美感を凌駕するものではなく、需要者が受ける全体としての美感を異にするものというべき」と判断し、本件意匠と被告意匠の類似性を否定しました。

 次に、意匠法26条1項は、ある物品(例えば、自転車のハンドル)の意匠が意匠権の対象となっていた場合に、当該意匠をそのまま実施することとなるような意匠(例えば、自転車の意匠)を実施することは、当該物品の意匠を「利用」するものとして許されないと定めています。
 裁判所は、本件意匠と被告意匠は、各意匠の特徴部分に関して顕著な相違があるため、被告意匠が、本件意匠等の全部を「その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別し得る態様において包含」するとはいえないとして、被告意匠は、本件意匠又はこれに類似する意匠を「利用する」といえないと判断しました。

 一審で敗訴した原告は控訴し、控訴審において、「被告意匠の背面部においてマグネットの上端と下端に設けられた防滑シートは、本件意匠の権利範囲外に設けられたものであって本件意匠と対比する際に比較する必要がなく、類比判断に影響しないから、被告意匠は本件意匠に類似するとの判断がなされるべきである」という主張等を追加しました。
 しかし、裁判所は、「マグネットと防滑シートは、部材が違うけれども、いずれも黒っぽい色であって周囲が突出した枠で囲まれているため、需要者は通常上記両部材を一体のものとして観察するのが自然と解されるから、被告意匠の背面部における本件意匠の背面部(右側面図)において意匠登録を受けようとする部分に相当する部分は、縦長長方形のマグネットとその上端及び下端に設けられた横長棒状の防滑シートで画された部分とするのが相当である」として、原告の主張は認められませんでした。

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