経済安全保障法制に関する有識者会議は、2026年1月30日付で「経済安全保障の更なる推進に向けた提言」(以下「本提言」といいます。)を公表しました。今後、本提言を踏まえた経済安全保障推進法(正式名称は、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)」。以下「推進法」といいます。)の改正がなされる見込みとなっていることから、本稿では、本提言の主な内容の概要をご紹介いたします。
本提言は、2022年の推進法の成立後のより一層複雑さを増した経済安全保障をめぐる課題(ウクライナ侵略を背景とする国際情勢の急速な変化や、生成AIを含めた先端技術の開発競争の激化等)に対応する必要性が高まっているとの問題意識に基づき策定されたものです。本提言は、①サプライチェーン強靱化、②基幹インフラ役務の安定提供・特定重要技術の研究開発等、③海外事業の展開支援、④総合的な経済安全保障シンクタンク及び官民協議会の設置、⑤データセキュリティといった項目について、提言を行っています。
①サプライチェーン強靱化について
i. 特定の物資の供給に不可欠であり、かつ、専ら当該物資のために用いられる「役務」に関する取組を支援対象とすべきである
ii. 特定重要物資の安定供給確保が困難な事態に至る前、すなわち安定供給確保に支障が生ずるおそれがある場合であっても、可能な限り民間事業者による供給が実現されるよう、国による積極的な働きかけ等が必要である
ii. 特定重要物資の安定供給確保が困難な事態に至る前、すなわち安定供給確保に支障が生ずるおそれがある場合であっても、可能な限り民間事業者による供給が実現されるよう、国による積極的な働きかけ等が必要である
ⅰの提言により、上記の「役務」についても、推進法に基づく政府からの助成金等の支援措置の対象になることが見込まれています。
また、ⅱの提言により、推進法上、特定重要物資等の安定供給確保のための取組を妨げる事由の関係者に対して国が必要な協力を求めることを可能としたり、特定重要物資等の安定供給確保に関わる各関係者が相互に連携し、協力するよう努めるべき旨が規定される見込みとなっております。
②基幹インフラ役務の安定提供・特定重要技術の研究開発等について
基幹インフラ制度の対象事業に医療分野を追加すべきであるとともに、基盤インフラ制度の運用開始後に顕在化した同制度の課題に関して法改正その他の見直しをすべきである
基幹インフラ制度とは、国が基幹インフラ事業(特定社会基盤事業)を定め、一定の基準に該当する事業者(特定社会基盤事業者)を指定し、国が定めた重要設備(特定重要設備)の導入・維持管理等の委託をしようとする際に、事前に届出を行い、審査を受ける制度です。
上記の提言により、医療情報基盤・診療報酬審査支払機構や地域における最後の砦としての機能を有する特定機能病院が特定社会基盤事業者として、電子カルテ情報共有サービス等に係る設備や電子カルテ、手術部門、集中治療部門に関連する設備が特定重要設備として、それぞれ指定される見込みとなっています。また、基盤インフラ制度に関する推進法の改正や運用の改善もなされる見込みとなっております。
③海外事業の展開支援について
政府による指針の策定、民間事業者による実施計画を関係省庁が連携して判断する枠組みの設定、国際協力銀行(JBIC)の有する海外事業に関する知見・実績の活用、政府等による現地の最新情報や海外事業展開に関する知見の提供等によって、政府も主体的に民間事業者による経済安全保障上重要な海外事業の展開を支援すべきである
この提言によって、推進法上の新たな制度として、こうした支援制度の枠組みが規定される見込みとなっております。
④総合的な経済安全保障シンクタンク及び官民協議会の設置について
i. 適切な政策立案のために、平時からの継続的な分析を基礎としつつ、状況に応じた機動的かつ専門的な調査研究を行う総合的な経済安全保障シンクタンクを設置する
ii. 顕在化しているリスクの実態及び影響とその対策の検討、顕在化していない業種横断的なリスクに対する中長期的対応の検討、潜在的に想定されるリスクシナリオに対する平時及び有事の対策の点検・検討等をテーマとして開催する官民協議会を設置する
ii. 顕在化しているリスクの実態及び影響とその対策の検討、顕在化していない業種横断的なリスクに対する中長期的対応の検討、潜在的に想定されるリスクシナリオに対する平時及び有事の対策の点検・検討等をテーマとして開催する官民協議会を設置する
これらの提言によって、推進法上の新たな制度として、経済安全保障シンクタンク及び官民協議会が設置される見込みとなっております。
⑤データセキュリティについて
外部から行われる行為によってデータが流出する等により、国家及び国民の安全が害されることを防ぐため、安全保障上重要な民間保有データ(個人に関する機微なデータ、基幹インフラ役務の安定的な提供に必要なデータ)を防護するための措置、並びに、データセンター及びクラウド上の大量のデータを防護するための措置等の検討が必要である
もっとも、直近の報道によれば、データセキュリティに関する項目は、今回の改正案への反映を見送られたとされております。
以上のとおり見込まれている推進法の改正は、支援、規制のいずれについてもその対象や内容を拡張するものであると評価できます。そのため、各事業者においては、今後制定される改正法の適用対象等を確認して推進法の規制を遵守するとともに、新たな支援制度や活発化する経済安全保障に関する議論等を自己の事業に活かすことが期待されます。
(文責:田村遼介)

