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流通・取引慣行ガイドラインの改正案の公表

2026/05/29

流通・取引慣行ガイドラインの改正案の公表

1 はじめに

 公正取引委員会は、令和8年5月13日に、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」といいます。)の改正案を公表し、意見公募手続(いわゆる「パブコメ」)を行っています。
 流通・取引慣行ガイドラインは、独占禁止法の検討をする際に頻繁に参照されるガイドラインの一つといえ、当該ガイドラインを参照されたことのある皆様も多いことと存じます。流通・取引慣行ガイドラインの最終改正は平成29年6月16日ですので、実に9年ぶりの改正となります。そこで、今回は、5月13日に公表された改正案について解説いたします。なお、パブコメにおける意見提出期限は6月11日となっており、パブコメで寄せられた意見を踏まえて、修正の必要がある場合には修正がなされるほか、意見に対する考え方が公表されることが予定されています。

 今回の改正は、原則として違法となる再販売価格維持行為が、例外に違法とならない場合の考え方と具体例を追加したものとなります。すなわち、事業者が、自社の商品を購入する小売業者等に対してその商品の販売価格を指示し、これを守らせる再販売価格維持行為は、競争手段の重要な要素である価格を拘束するものであり、独占禁止法上、原則として違法となります。流通・取引慣行ガイドラインでは、その例外として、通常、違法とならない場合の考え方が既に明らかにされていますが、今回の改正案は、その考え方に該当する場合及び具体例を追加したものとなります。公正取引委員会は、今回の改正案について、「事業者における独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てようとするもの」としています。

2 改正案の内容

 現在の流通・取引慣行ガイドライン第1部第1の2(7)においては、原則として違法となる再販売価格維持行為について、例外的に、通常、違法とならない場合の考え方として、いわゆる「単なる取次ぎ」が既に規定されています。具体的には、以下のとおりです。

【現在の規定】

次のような場合であって、事業者の直接の取引先事業者が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみ て当該事業者が販売していると認められる場合には、当該事業者が当該取引先事業者に対して価格を指示しても、通常、違法とはならない 。

①委託販売の場合であって、受託者は、受託商品の保管、代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど、当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合

②メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し、納入価格が決定される取引において、卸売業者に対し、その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって、当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い、その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合など、実質的にみて当該メーカーが販売していると認められる場合

 今回の改正案では、「単なる取次ぎ」に該当する場合が一つ追加されました。具体的には、以下のとおりです(下線部は筆者記載)。

【改正案の内容】

③流通業者に対 して商品を販売する場合であって、 メーカーが、流通業者において当該商品のユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用 (注5の2)を自ら負担することにより(注5の3)、実質的にみて当該メーカーがユーザーに販売していると認められる場合


上記のうち、「ユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用」の内容については、以下のとおり規定されています。

【改正案の内容】

ユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用の内容は、個別具体的な事案に即して判断するが、以下のaからeまでは、通常、ユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用に含まれる。
a 売れ残った場合の危険
b 契約不適合があった場合の危険
c 在庫保管についての善良な管理者としての注意 義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合の危険
d 代金回収が不能となった場合の危険
e ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用(在 庫保管費用、輸送費用、広告宣伝費用等)

 また、「メーカーが、流通業者において当該商品のユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用を自ら負担」しているか否かについては、以下のとおり考え方が具体化されています。

【改正案の内容】

ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用の実態を、メーカーが網羅的に把握することは困難な場合もあると考えられるところ、メーカーが、流通業者に対し、
a 流通業者においてユーザーへの販売に至るまで に生じる費用をメーカーが負担すること
b 当該費用の項目及びその負担方法
c 当該費用の項目に不足があるなどとして流通業 者が協議を希望する場合にはその旨を申し出ることができること
をあらかじめ明示した上で、流通業者から協議の申出があった場合、当該申出の内容について当該流通業者と協議し、これら一連の過程で確認された費用をメーカーが負担した場合には、通常、メーカーが、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用を負担したものと考えられる。もっとも、協議による合意の結果であるとしても、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用を、流通業者に一部でも負担させることとする場合には、メーカーが当該費用を負担したことにはならない。

3 改正案の背景

 今回追加された、いわゆる「単なる取次ぎ」として、例外的に、通常、違法とならない場合の考え方については、家電業界で近年広まっている「指定価格制度」(家電メーカーが販売店に対し小売価格を指定する一方で、売れ残った製品を販売店から引き取るという仕組み)を念頭においた規定であると考えられます。
 「指定価格制度」については、公正取引委員会は、相談事例集において、以下のとおり独占禁止法上問題とならない事例を挙げています。

<平成28年相談事例集「1 メーカーによる小売業者への販売価格の指示」>
 家電メーカーが、商品売れ残りのリスク等を自ら負うことを前提として、小売業者に対して家電製品の販売価格を指示することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

<令和元年度相談事例集「5 家電メーカーによる小売業者への販売価格の指示」>
 家電メーカーが、商品売れ残りのリスク等を自ら負うことを前提として、小売業者に対して特定の家電製品の販売価格を指示することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

<令和6年度の相談事例集「1 家電メーカーによる取引先事業者に対する一般消費者への販売価格の指示」>
 家電メーカーが、家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスクと費用を自ら負担することを前提として、取引先事業者に対し、一般消費者への販売価格を指示することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

 今回の改正案においても、令和6年度の相談事例集1の事例が「具体例」として挙げられています。具体的には、以下のとおりです。

【改正案の内容】

家電メーカーX社が、取引先事業者に対し、一般消費者への販売価格を指示することは、

ア 取引先事業者は、納品日から一般消費者等への 販売までの間、いつでも対象家電製品を返品することが可能であり(X社は、返品費用を負担するとともに、代金相当額を返金する。)、対象家電製品に係る売れ残りのリスクについては、実質的にX社が負っていること
イ 一般消費者への販売前の対象家電製品に契約不適合があった場合の責任については原則としてX社が負うこと、また、商品の滅失、毀損等の対象家電製品に係る在庫管理上のリスクについても、原則としてX社が負っており、取引先事業者は、善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて、当該リスクを負わないこと
ウ 一般消費 者に対する販売における代金回収方法 は、現金やクレジットカードによる決済が用いられるなど、実質的に代金回収が不能となるリスクを取引先事業者が負うことはないこと
エ 取引先事業者に対し、
(ア) 在庫保管費用や輸送費用等の対象家電製品の 一般消費者への販売に至るまでに生じる費用をX社が負担すること
(イ) 当該費用の項目及びその負担方法
(ウ) 当該費用の項目に不足があるなどとして協議 を希望する場合にはその旨を申し出ることができること

を明示した上で、取引先事業者から申出があった場合、当該申出の内容について取引先事業者と協議し、これら一連の過程で確認された費用を自ら負担することを前提とすれば、対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスク及び費用を自ら負担して行われているものということができる。すなわち、X社の取引先事業者は単なる取次ぎとして機能しているにすぎず、実質的にみてX社が一般消費者に対して対象家電製品を販売しているといえる。したがって、独占禁止法上問題となるものではない。


4 おわりに

 上記のとおり、今回の改正案は、家電業界で近年広まっている「指定価格制度」を念頭においた規定であると考えられます。しかし、改正案においては、家電業界における「指定価格制度」に限定しているわけではないため、改正案の考え方が妥当する場合においては、いわゆる「単なる取次ぎ」として、例外的に、通常、違法とならないこととなります。
 しかし、販売価格維持行為は、競争手段の重要な要素である価格を拘束するものであり、独占禁止法上、原則として違法となる行為であって、違法とならない範囲は相当程度狭いものです。また、今回の改正案の内容をみても、例外的に、通常、違法とならない範囲は限定されていると考えられます。そのため、今回の改正案によって、再販売価格維持行為が例外的に違法とならない範囲が広くなったわけではないという点について、留意が必要です。
 なお、6月11日が期限のパブコメで寄せられた意見を踏まえて、修正の必要がある場合には修正がなされることになりますので、最終的な改正内容も確認する必要があるほか、意見に対する考え方(パブコメ回答)が公表されることもございますので、パブコメ回答にも注視が必要です。

(文責:山田)

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