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    ~能力不足社員の普通解雇はどこまで認められるか
    ―東京地裁令和5年10月27日判決から見る労働契約法16条の判断枠組み―

中野 明安大庭 浩一郎川俣 尚高縫部 崇佐々木 賢治高橋 香菜

労働法判例ヘッドライン
~能力不足社員の普通解雇はどこまで認められるか
―東京地裁令和5年10月27日判決から見る労働契約法16条の判断枠組み―

2026/06/30

労働法判例ヘッドライン
~能力不足社員の普通解雇はどこまで認められるか
―東京地裁令和5年10月27日判決から見る労働契約法16条の判断枠組み―

能力不足社員の解雇は人事権の行使と言えるか?

 最近、ある会社の人事担当者から、「中途採用した従業員が当社で役立つ能力を有していないことが判明した」「何度指導しても改善しない」という状況から「能力不足」を理由として当該社員を「解雇することはできないか」という相談を受けることがありました。

 企業としては「経験者として採用した以上、期待された成果を出せなければ雇用継続は困難である」と考えることは自然なことではありますが、しかし、我が国の労働法制では、能力不足を理由とする普通解雇についても
労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
の規制を受け、「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。

 つまり、会社が「期待外れだった」と感じるだけでは足りず、裁判になった場合には、その判断に至るまでに会社が何に取り組んだか(プロセス)を具体的に説明できなければならないのです。

東京地裁令和5年10月27日判決は何を規範としたか?

 近時参考になる裁判例として、東京地裁令和5年10月27日判決があります。同事件では、外資系投資運用会社において、専門的な知識・経験を有する者として採用された従業員について、期待された能力・成果を発揮していないことなどを理由とした普通解雇の有効性が問題となりました。

 この会社の就業規則には以下の規定があります。

就業規則第19条(解雇の手続)
1 従業員が次の各号の一に該当するときは、三〇日前に予告して解雇する。
②労働能力が劣り、向上の見込みがないと認めたとき。

 裁判所は、この規定に基づきなされた解雇の有効性を判断するための規範を以下のように定立しました。

「債務者は、就業規則19条1項2号「労働能力が劣り、向上の見込みがない」に該当するとして、本件解雇を行っているので、債権者の業務遂行がこれに該当するかどうかについて検討されなければならない。そこで、就業規則19条1項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、2号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、2号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。」

 以上の通り裁判所は規範定立をしたうえで、採用時にどのような能力や役割が期待されていたのか、その期待水準に照らしてどの程度不足があったのか、会社が問題点を指摘し改善の機会を与えていたのか、といった事情を総合的に検討を行いました。

 この考え方は、従来の裁判例とも共通しています。例えば、セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁平成11年10月15日決定/平成11年(ヨ)第21055号(判例タイムズ1050号129頁ほか))について、会社が期待していた水準に達していないというだけでは足りず、雇用を継続できないほど重大な能力不足といえるかが慎重に判断されました。

判決から学ぶ教訓は「会社の改善プロセスの実施と記録化」

 これらの裁判例からの教訓としてご紹介したいのは、

「能力不足(と考える)社員を解雇できるか」という問題については、
① 能力不足であることをどのように確認したか。
② 改善に向けてどのような対応をしてきたか

というプロセスをしっかりと確立して、かつ、具体的なやりとりを記録化しておくことの重要性です。

 具体的には、第一に、採用時・配置時に求める役割や期待水準を明確にしておくことです。特に専門職採用では、担当業務、求める成果を可能な限り具体化しておくことが良いと思います。
 第二に、問題が生じた場合には、その都度、具体的な事実に基づいて指導し、記録を残すことです。「コミュニケーション能力が低い」「管理能力が不足している」という抽象的評価だけでは、裁判では到底戦えません。どのような問題があるのか、その問題について会社はどのような改善を求めたのかを説明できるよう対応をしておく必要があります。
 第三に、最も大事なのは、「改善機会を与える」ことです。改善の機会をしっかり与えたという「プロセス」です。このプロセスを経て能力不足が改善されるのであれば雇用継続ができるのですから、その雇用継続のために合理的努力を行ったことが重要になるのです。

 普通解雇は就業規則で定めた人事権の一つではありますが、裁判所はその行使について慎重に判断しています。他方で、適切な採用方針、評価制度、指導記録、改善プロセスを整備していれば、「普通解雇」は企業が組織を維持し、適正な人事管理を行うための正当な選択肢となります。

 日頃からの人事管理こそが、最大の対策だということをぜひ理解をしておいていただきたいと思います。



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