1 はじめに
2026年7月21日、「規制改革実施計画」が閣議決定され、「強い経済の実現」に向けた実施項目として、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。以下「景品表示法」といいます。)における「不実証広告規制」の運用見直しが盛り込まれました。
具体的な実施項目として、
① 消費者庁が景品表示法7条2項に基づき優良誤認表示に該当するか否かを判断するための裏付けとなる合理的な根拠を示す資料(以下「合理的根拠資料」といいます。)の提出を求める場合、その提出を求める時点、及びそれに先立つ事前調査の各時点で、当該事業者がした表示から一般消費者が受ける、又は受けるであろう印象・認識について、消費者庁の考え方を事業者に説明すること
② 措置命令時において、事業者が提出した資料が合理的根拠資料に該当しないと認定した理由を具体的に説明し、公表すること
の2点について検討を行い、検討結果を踏まえた速やかな措置を実施することが挙げられております。
本稿では、「規制改革実施計画」の閣議決定等により注目を集める不実証広告規制の現在地について、改めて外観していきたいと思います。
2 不実証広告規制とは
既にご紹介は不要と思われますが、念のため簡単にご紹介しておきますと、不実証広告規制とは、消費者庁長官が商品・サービスの効果、性能に関する表示をした事業者に対し、期間を定めて当該表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求め、当該事業者が当該資料を提出しないときは、消費者庁が当該表示について実際のものとは異なるものであること等の具体的な立証を行うまでもなく、景品表示法5条1号の優良誤認表示に該当する表示とみなす法的効果を発生させる制度です。
不実証広告規制は、2003年の法改正により導入された制度ですが、その背景には、それまで不当表示として規制するためには公正取引委員会(※2009年の消費者庁発足前)において専門機関を利用して調査・鑑定等を行い、表示どおりの効果、性能がないことを立証する必要があり、行政処分を行うまでに多大な時間を要し、その間に不当表示の疑いのある商品・サービスが販売され続け、消費者被害が拡大するおそれがあったことがあります。
景品表示法7条2項により事業者が提出した資料(以下「提出資料」といいます。)が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであると認められるためには、⑴提出資料が客観的に実証された内容のものであること、⑵表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容とが適切に対応していることの二要件を満たす必要があるとされております(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」第3の1)(なお、当該二要件の詳しい説明は紙幅の都合上割愛します。)。
3 不実証広告規制を前提になされた措置命令を取り消した糖質カット炊飯器事件
消費者庁は、このような不実証広告規制を武器に商品・サービスの効果、性能について不当表示の疑いのある表示について次々と行政処分を行ってきましたが、2025年7月、不実証広告規制を前提になされた消費者庁の措置命令について、これを取り消す旨の判決が東京地裁でなされました。これがいわゆる糖質カット炊飯器事件ですが、本件は、消費者庁の措置命令が訴訟により取り消された全国初の事例として、当時大きな注目を集めました。
糖質カット炊飯器事件の概要を簡単にご説明しますと、消費者庁長官が「美味しさそのまま 糖質45%カット炊飯器」などと表示(実際にはこれ以外の表示も含まれますが、本稿では紙幅の都合上割愛します。以下「本件表示」といいます。)して炊飯器を販売していた事業者4社に対して、景品表示法7条2項に基づき、本件表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求めた事案で、事業者から一定の資料が提出されたものの、当該提出資料がいずれも本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないとして、消費者庁が措置命令を行ったというものです。そして、措置命令を受けた事業者のうち1社が、措置命令が違法であるとして、訴訟を提起したところ、これが認容されて措置命令が取り消されたというものです。
措置命令の段階における公表資料では消費者庁がどの点に関する合理的根拠資料が提出されなかったと判断したのかが不明でしたが、訴訟段階における主張内容等によれば、消費者庁は、本件表示を、①糖質カット炊飯機能で炊飯した場合であっても、通常の炊飯機能で炊飯した米飯と同様の炊き上がりになること、②米飯に含まれる糖質(でんぷん)が45%カットできることを内容とするものと認定(以下「本件認定」といいます。)し、①の部分に関する合理的根拠資料がないという理由で措置命令を行ったことが分かりました。
第一審の東京地裁では、措置命令の理由となった①の認定(糖質カット炊飯機能で炊飯した場合であっても、通常の炊飯機能で炊飯した米飯と同様の炊き上がりになるという表示がなされているとの認定)が誤りであるかどうかが争点となり、裁判所は「事業者がした表示の意味内容を認定するに当たっては、一般消費者が当該表示の内容全体についてどのような印象ないし認識に至るかに基づいて判断するのが相当であり、表示上の特定の文章、図表、写真等から一般消費者が受ける印象ないし認識のみに基づいて判断することは相当ではない」と判示した上、本件表示について、一般消費者は、糖質カット炊飯機能で炊飯した米飯の状態は、一般的な炊飯器で炊飯した米飯と異なると認識すると認定し、本件認定を誤りと判断して、措置命令を取り消しました。国は控訴して争いましたが、東京高裁における控訴審においても第一審と同様の認定がなされ、措置命令の取消しが確定しました。
4 糖質カット炊飯器事件と不実証広告規制
ここで「規制改革実施計画」に話を戻しますと、同計画においては、不実証広告規制の運用見直しが盛り込まれた背景について、「『一般消費者が当該表示から受け、又は受けるであろう印象・認識』などや事業者が提出した資料が合理的な根拠資料に該当しない理由又は不十分な理由が十分に示されていない」などと説明されており、消費者庁による不実証広告規制の運用の不透明さが指摘されているところです。この点については、糖質カット炊飯器事件においても、裁判所の認定事項ではないものの、原告から「消費者庁長官が、原告に対し、景品表示法7条2項の規定の基づく合理的根拠資料の提出要求等に当たり、本件表示について本件認定を明示しなかったことは違法である」との主張がなされており、規制改革実施計画と共通の問題意識が示されております。
5 今後の実務対応について
このように不実証広告規制の運用の不透明性についての問題意識が広がっていることからすれば、規制改革実施計画に基づいて不実証広告規制の運用が見直される公算が高いのではないかと考えられます。規制改革実施計画においては、2026年度に検討を開始し、2027年度には結論を得て、速やかに措置を行うというスケジュール感が示されておりますので、消費者庁の不実証広告規制に関する今後の運用動向が注目されるところです。
また、今般消費者庁から公表された「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表」(2026年8月31日公表)によれば、景品表示法に基づく措置命令の件数は、2025年が13件、2026年が4件(但し、7月31日までの約半年分)と、44件であった2023年、26件であった2024年との比較において、減少傾向にあることがうかがえます。不実証広告規制の運用見直しがこのような法的措置の減少傾向を維持させる効果があるかというと、必ずしもそうとはいえず、今後、執行が再度活発化することも十分考えられるところですので、執行件数の動向についても注視が必要と考えられます。
最後に、規制改革実施計画に基づく不実証広告規制の見直しは、景品表示法7条2項に基づき合理的根拠資料の提出を求められた場面や、同条1項に基づき措置命令がなされた場面においてその運用の透明性を高め、攻撃防御に資するものと考えられます。もっとも、本来的には、消費者庁から不当表示の疑いをかけられるような表示を行わないことが肝要であり、そのためには、表示物の内容を裏付ける合理的根拠資料があるかどうかという点に加え、糖質カット炊飯器事件判決で判示された「一般消費者が表示の内容全体についてどのような印象・認識を持つか」という視点を踏まえ、自社の表示物が一般消費者にどのような印象・認識を与えるものであるのかを確認しつつ、当該印象・認識と合理的根拠資料が適切に対応しているかという観点から自社の表示物の表示内容を精査することが重要であると考えられます。
さて、本稿は以上となりますが、本メールマガジンにも記載させていただいたとおり、独占禁止法・競争法チームでは10月29日に「取引適正化法制に係る実務対応~取適法等の近時の執行状況、物流特殊指定の改正、支払告示の新設等を踏まえて~」というテーマでセミナーを実施させていただきます。セミナーにおいては直近まで公正取引委員会に出向し、取適法の調査・執行を担当していた堀口佐耶香弁護士による近時の勧告案件における注目ポイントや、公正取引委員会における近時の執行状況から導かれる現実的な実務対応等についても解説させていただきますので、奮ってご参加頂けますと幸いです。
(文責:眞木)

