●登場人物
軽照男(かるてるお):厳しい業績に悩む中堅企業の社長
高鳥雄三(こうとりゆうぞう):同社の法務部長
軽照男 :ようやく販売にこぎ着けた新商品だが、がんがん広告を打ってがんがん売らないとな。
高鳥雄三:そうですね。でも、開発に結構な費用を割いてしまったので広告宣伝費の枠はあまりないようじゃないですか。
軽照男 :最近はネットだよ、ネット。名前は忘れてしまったが、成果報酬型で手軽に使える広告があるんだよ。大学生の息子もブログに広告を載せてお小遣い稼ぎをしてるとかなんとか言ってたぞ。
高鳥雄三:アフィリエイト広告のことですね。たしかに、コストパフォーマンスがよい広告だっていう話もありますし、今の我が社にはぴったりかもしれません。
軽照男 :そうそう。アフィリエイト広告。よくわからんが、誰かが勝手に我が社の宣伝をしてくれるんだからこんなに楽なことはないな。自分にもお金が入るんだからどしどし宣伝してくれるって訳だ。
高鳥雄三:今社長がおっしゃっているのはアフィリエイターのことですよね。アフィリエイト広告の登場人物はこんなイメージですよ。

軽照男 :とにかく、一旦お願いすればあとはアフィリエイターなりASPなりが頑張ってくれるんだろ。(アフィリエイターだって注文がくればくるだけASPから報酬をもらえるんだから、我が社の製品をとことん褒めちぎってくれるはず…。)
高鳥雄三:もしかして、ASPやアフィリエイターが勝手に作った広告だから我が社に責任はないだなんて考えてないですよね。
軽照男 :広告ときたら景表法の話だろ。我が社は広告の内容に関与していないから、表示はしてないはず。
高鳥雄三:社長…。「表示をし」には、他の事業者に表示内容の決定を委ねた事業者も含まれるという解釈が実務ですよ。実際、アフィリエイト広告が不当表示にあたるとして、広告主に措置命令が出た事例もあります。
軽照男 :アフィリエイターに足を引っ張られたらたまったもんじゃないな。
高鳥雄三:(アフィリエイターに丸投げするって言ってた人が何を言っているんだ。)ちなみに、先月(2022年6月29日)、消費者庁が、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」と「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を一部改正しています。「留意事項」では、アフィリエイト広告についても、広告主が景表法上の表示主体として責任を負う場合があることが確認されました。
軽照男 :また指針か。で、何て書いてあるんだ。
高鳥雄三:広告主がアフィリエイト広告を利用した広告を行う場合に講じるべき措置が改正で追加されています。たとえば、
✓ 商品・役務の長所や要点を一般消費者に訴求するために、その内容等について積極的に表示を行う場合には、広告主において、事前に表示等に関する根拠となる情報を確認すること
✓ ASPやアフィリエイター等との間で、表示等の作成を委ねる契約書において役割分担・責任の所在を明記してくこと・景表法の考え方の周知・啓発
✓ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために、ASPやアフィリエイターにおいても、資料保管等の必要な措置をとること
✓ 「広告」であることを表示すること
など、これに限らず色々と書かれています。
軽照男 :どれどれ、なんだこれは。「広告」という文言が、上部に位置していることやアフィリエイトサイトにおける表示において使用されている文字の平均的な大きさと比べて、少なくとも同程度の大きさにすることが望ましいだって?「広告」の表示なんてしたら消費者から敬遠されてしまうじゃないか。 高鳥雄三:社長の指摘はパブリックコメントでも複数意見が出ているところです。意見の中には、「日本のユーザーは広告と記載があるだけで情報を信用しない極端な人が多い」、広告であることを明示させることは、「全てにとって不利益となる」といったコメントも出ています。もっとも、消費者庁は、「本指針は、…事業者に何らかの義務を課すものではありません」としており、他の措置であって必要な措置として適切なものであれば問題ないという回答をしています(「他の措置」として何をすれば良いか明らかではありませんが…。)。
軽照男 :いずれにしても、景表法上我が社が責任を負わないように、問題なさそうなASPとアフィリエイターのリサーチから始めてくれ。ちゃんと、「うちの新商品は、誇大宣伝なんかせんでも売れるでぇ」って伝えておいてくれよ。
高鳥雄三:わかりました。義務ではないとはいっても、指針で要求されている事項については整理しておきます。
(文責:経済法研究チーム)