●登場人物
軽照男(かるてるお):厳しい業績に悩む中堅企業の社長
高鳥雄三(こうとりゆうぞう):同社の法務部長
軽照男 : 高鳥くん、間もなく期末を迎えるが、原油価格が7年ぶりの水準まで値上がりし、最近の円安の進展とのダブルパンチで、原材料価格が値上がりして、我が社の業績はとても厳しいものになりそうだ。
高鳥雄三: ほんとうに困ったものですね。でも、厳しいのは下請さんも同じようで、労務費、原材料費、エネルギーコストが上がっているので、コスト上昇分を納品価格に反映させて値上げをしてほしいと求めてきているのですが、どうしましょうか。
軽照男 : そんなこと言っても、ウチも客先に値上げのお願いをしているが、客先も簡単に認めてくれるわけもなく、厳しい競争の中で、ウチも値上げをせずに歯を食いしばってがんばっているんだ。下請さんには、ウチも苦しいんだと伝えて我慢してもらえ。
高鳥雄三: 社長。それは買いたたきとして、下請法に抵触するおそれがあると思います。
軽照男 : 買いたたきだと~。買いたたかれているのはウチの方じゃろが。
高取雄三: 公取委の「運用基準」(昭和62年事務局長通達第2号)では、買いたたきに該当するかどうかは、対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況に加えて、当該給付に必要な原材料等の価格動向等も勘案して、総合的に判断することとするとされています。
軽照男 : そうは言っても、原材料等の価格が上昇したからと言って、直ちに上昇分をそのまま価格に反映しなきゃならん、ということじゃないんじゃろ。
高取雄三: それはそうですが、公取委の「運用基準」にも記載されているとおり、買いたたきに該当するかの判断にあたっては、下請代金の額の決定にあたり下請業者と十分な協議がなされたか等の対価の決定方法も考慮されます。そして、去年の12月27日に内閣官房、消費者庁、公正委等の関係省庁により「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(「転嫁円滑化施策パッケージ」)が合意され、それに関する取組として、公取委は、今年の1月26日に下請法に関する運用基準を改正し、①労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコスト上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく価格を据え置いたり、②上記コストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引き上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を文書や電子メールなどで下請事業者に回答することなく、価格を据え置くことは、下請法上の買いたたきに該当するおそれがあることを明確化しました。
軽照男 : そうか。ただ「ウチも苦しいから我慢してくれ」と口で言うだけじゃダメなんじゃな。
でも、下請法の適用のない下請さんに対しては、買いたたきになることはないんじゃろ。
高取雄三: 確かに、下請法上の買いたたきに該当することはありませんが、下請さんとの関係次第では、「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあります。先ほど述べた「転嫁円滑化施策パッケージ」でも、下請法の適用対象とならない取引についても、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、独禁法の「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあることを、公取委は明確化し、周知徹底するとされています。
軽照男 : う~む、そうか。
でもこんなことを言っては何だが、仮に買いたたきや優越的地位の濫用にあたっても、公取委や中小企業庁の知るところにならなきゃお咎め無しだし、ウチの下請さんはウチとの関係に配慮して、当局に垂れ込むことはしないじゃろ。
高取雄三: 社長、そういうわけにもゆかなくなりそうなんです。
これも「転嫁円滑化施策パッケージ」に基づく取組として、今年の1月26日に、公取委はそのホームページに、下請事業者が匿名、「買いたたき」などの違反行為を行っていると疑われる親事業者に関する情報を公取委・中小企業庁に提供できる情報提供フォーム(「違反行為情報提供フォーム」)を新たに設置しました。
軽照男 : う~む、これも今流行の公益通報ということなんかな。
高取雄三: 公取委も2月中旬に「優越的地位濫用未防止調査室」を新たに設置して、原材料費や人件費の上昇を踏まえて、下請けの中小企業が適切に価格転嫁できているか調べるということです。
軽照男 : 公取委も本腰を入れて価格転嫁に取り組むつもりなんじゃな。
ウチは、価格転嫁を認めてくれない客先と価格転嫁を求める下請さんとの間で板挟みになって苦しい立場じゃが、下請さんたちあってのウチじゃから、下請けさんとのパートナーシップの構築を進めなあかんということじゃな。
それにしても、客先に価格転嫁できないウチの労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇は、なんとかし転嫁。
(文責:経済法研究チーム)