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令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果

2026/02/27

令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果

1 はじめに

 公正取引委員会は、価格転嫁円滑化に関する政府全体の施策である「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月27日 内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・公正取引委員会)に基づく取組の一環として、令和4年1月26日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)を改正するとともに、令和4年2月16日、下記①又は②に該当する行為が、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の一つに該当するおそれがあることを明確化しました。

① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

 
 その後、上記①又は②に該当する行為が疑われる事案や価格転嫁の状況等を把握するため、令和4年度以降、毎年価格転嫁の取組に関する調査が実施されています。令和7年度も「価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和7年度調査」といいます。)が実施され、令和7年12月15日付けで結果が公表されました。

2 令和7年度調査の結果

 令和7年度調査においては、労務費転嫁指針の認知は昨年度と比較して一定程度進み、昨年度よりも労務費の転嫁が受け入れられやすい傾向がうかがわれました。他方、サプライチェーン全体で見た場合、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と取引段階を遡るほど、労務費の要請受諾率が低くなる傾向にあり、特にサービス業において、一次受注者以降、引上げ品目率が下降する結果となりました。こうした要因として、(ⅰ)自身が受注者である取引において十分価格転嫁をされていないこと、(ⅱ)自身が発注者である取引において価格転嫁をするという意識に欠けていたこと、(ⅲ)自身から積極的に協議を働きかける意識に欠けていたこと等が挙げられます。

 そして、令和7年度調査において、独占禁止法上の問題につながるおそれのある事例として、下記の事例が確認されています。

業種名内容
道路貨物運送事業者道路貨物運送業者A社は、顧客から受託した運送業務の一部を下請運送業者に委託しているところ、顧客との運賃を基準に下請運送業者への支払額を決めているため、顧客が運賃引上げに応じない場合、下請への価格反映が困難であった。その結果、顧客が運賃の引上げに応じないことを理由として、下請運送業者からの価格引上げ要請の有無にかかわらず、コスト上昇分の反映について協議を行わないまま取引価格を据え置いていた事例。
情報サービス業者情報サービス業者A社は、パッケージソフト開発業務の一部を外部の情報システム開発業者に委託しており、受注者からの価格引上げ要請があれば応じてきたものの、要請がないことを理由に協議せず、コスト上昇分を反映せず取引価格を据え置いた事例。

 上記のような事例が発生した要因としては、発注者は受注者から協議の申し入れがあれば応じるつもりであったものの、受注者が申し入れを行わなかったことや、発注者に取引価格の引き上げを受け入れる原資がないこと等が考えられます。

 また、労務費転嫁円滑化の取組として、下記の取組事例が確認されています。

業種名内容
情報サービス業 【発注者】毎年1回、数百社ある受注者全てに対して、価格転嫁要望の有無を確認する文書を送付し、受注者からは必ず受領確認の連絡を受けるようにしており、当該連絡がない場合には、文書送付後おおむね1カ月を目途として電話などで状況確認を行っている事例。
【発注者側からの定期的な協議の実施】
生産用機械器具製造業 【発注者】受注者に参考提示している労務費転嫁の申請フォーマットでは、再委託先との取引価格を踏まえた要請額を算定できるようにしている事例。
【サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと】
情報サービス業 【発注者】発注業務を適切に遂行してもらう観点から、受注者ごとの再委託先を一覧で把握しており、受注者との取引価格を決定する際には、受注者と再委託先間の取引において価格転嫁が適切に行われていることを必ず確認している事例。
【同上】
道路貨物運送業 【受注者】最低でも年一回の運賃引上げ要請を行うことを念頭に置いているが、労務費等の上昇を踏まえて、受注者が必要と判断したタイミングで、社長が表敬訪問を兼ねて発注者のもとに出向き、運賃引上げの要請を行っている事例。
【労務費上昇分の価格転嫁に向けた適切な交渉機会の活用】
電子部品・デバイス・電子回路製造業 【発注者】価格協議の場以外でも受注者と話す機会を設け、受注者から要望や困り事を聞くため、各担当者が週に1回、受注者と何らかの形で話をするようにしている事例。
【定期的なコミュニケーションの実施】

3 おわりに

 公正取引委員会は、令和8年度においても、労務費転嫁指針のフォローアップや労務費の上昇分の価格転嫁の状況等について重点的な調査を継続するとしています。各社の皆様において日頃よりご留意いただいていると思われますが、明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることにご留意いただくとともに、受注者が発注者に対して価格協議を申し出にくい状況を解消するため、日頃から積極的にコミュニケーションをとり、受注者・発注者の双方が相談しやすい関係を構築することが望ましいと考えられます。

(文責:青木)

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