1 事案の概要
今回は、令和4年11月25日に都労委からの救済命令が認められたウーバージャパン事件についてご報告いたします。ウーバーイーツの配送パートナーが会社に対して団交の申し入れをしたところ、会社はこれを拒否したという案件であり、都労委は、団交に応じるべきとの命令を発令したものです。
(注)厳密にいうと、団交申し入れの相手方は、Uber Japan株式会社とUber Eats Japan合同会社の2社となっていますが、議論が若干複雑となるため、本稿では、会社という表現で一本化しています。
ウーバーイーツのシステムにおいては、注文者が飲食店に飲食物を注文し、飲食店がその注文に応ずると、配達パートナーに配達リクエストが送信され、配達パートナーが配達リクエストに応じると、配達パートナーは、飲食物を受け取り、注文者に配達することとなります。契約関係でいうと、飲食物の販売については、注文者と飲食店との間で直接取引が行われ、飲食物の販売に配送が伴う場合は、飲食店と配達パートナーとの間で配送に係る取引関係が生じるとされています。よって、会社は、注文者、飲食店及び配達パートナーとの間で、インターネットを用いてプラットフォームを提供するものにすぎないとも言えるため、配達パートナーが会社に対して労務を提供する関係とはなっていないように思われ、「労組法上の労働者」に当たるか否かが問題とされたものです。
2 都労委の示した判断枠組み
都労委は、会社は、配達パートナーに対し、一定の禁止行為を定めてこれに反した場合はアカウント停止措置を行うことを示唆ないし警告し、時には実際にアカウント停止措置を行い、配達業務を正しく遂行することが困難と判断した場合には配達パートナーとのウーバーサービス契約を解消することを示唆し、トラブル発生時には会社が運営するサポートセンターがその対応に当たるなどしていると認定しました。加えて、配送料についても、契約上は、飲食店が配達パートナーに支払う形となっているものの、実際は、会社が代理権限に基づいて注文者から受領し、手数料を差し引いて配達パートナーに支払っている点も認定しました。以上の事実認定を前提に、会社は、事業の不可欠の業務である配達業務を円滑かつ安定的に遂行できるよう、当該業務の遂行に様々な形で関与し、配達パートナーは、そのような会社の関与の下に配達業務を行っていることからすると、配達パートナーは単なるプラットフォームの利用者というだけでなく、事業全体の中で、その事業を運営する会社に労務を供給していると評価できる可能性があることが強く推認されるとし、かかる可能性を前提として、労組法上の労働者性を、「事業組織への組入れ」「契約内容の一方的・定型的決定」「報酬の労務対価性」「業務の依頼に応ずべき関係」「広い意味での指揮監督下の労務提供」「一定の時間的場所的拘束」「顕著な事業者性等の諸事情」という各判断要素を総合的に考慮して判断すべきとしました。
3 労組法上の労働者性についての各判断要素の検討
「①事業組織への組入れ」という点ですが、配達パートナーが飲食物を注文者に配達する割合は、注文全体のうち99%を占めており、事業を成立させ収益を上げるためには、多くの配達パートナーを確保する必要があり、会社は、評価制度やアカウント停止措置等により、配達パートナーの行動を統制し、配達業務の円滑かつ安定的な遂行を維持している、一部の配達パートナーについて、第三者に対し自己の組織の一部として取り扱ったり、インセンティブを設けて事実上専属的に従事する配達パートナーを一定数確保したりもしている、などの事情を挙げて、配達パートナーは、会社の事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきであると判断しました。
「②契約内容の一方的・定型的決定」のについては肯定しました。この点はあまり争いがないように思います。
「③報酬の労務対価性」という点ですが、この点は以下のように述べて肯定しています。配送に関しては配達パートナーと飲食店との間で取引関係があるとしつつも、配送料の金額についても、会社が事実上決めていること、会社は、配送経路の適不適に応じて配送料を調整していることや配達が不履行に終わった場合ないし配達先に飲食物を渡せなかった場合に金銭的な補填をすることとなっていること等の事情を挙げて、実態としては、会社が配達パートナーに対し配送料を支払っているとみるのが相当としています。また、配送料については、配達パートナーが注文者に飲食物を配達する業務量に基づいて算出されている配送基本料に、繁忙手当や奨励金等に類する性質を有しているインセンティブ(不定期の追加報酬)によって構成され、いずれも、労務の提供に対する対価としての性格を有するものであると判断しています。
「④業務の依頼に応ずべき関係」についてですが、配達パートナーは、アプリをオンラインとするか否か、どの時間帯で、どの場所で配達業務を行うかは自由であり、配達リクエストを拒否しても、具体的な不利益を受ける旨の定めは特になく、業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいうことができないが、会社らが設定するインセンティブ報酬の関係で、目標を設定した配達パートナーは目標を達成するまでは、業務の依頼を拒否しづらいとか、配達パートナーは、一定額の収入が保証されているわけではなく、配達リクエストがどの程度送信されるかもわからないため、稼働予定期間中は、配達リクエストが来れば、応諾しようという意識がはたらくと考えられ(事実上専属的に従事している配達パートナーはとりわけそうである)、場合によっては、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれるような事情もあったことがうかがわれると判断しています。
「⑤広い意味での指揮監督下の労務提供」「一定の時間的場所的拘束」についてですが、少なくともどの時間帯にどの場所で業務を行うかについて、会社らからの拘束を受けているということはできないとしつつも、配達パートナーガイドにおいて、配達開始前の準備、配達の基本的な流れ、特別な出来事が生じた場合の流れ、配達中のトラブル対応などの配達業務の手順などについて詳細な記載がなされていること、トラブル発生時におけるサポートセンターからの指示は、助言であるだけでなく、配達業務を円滑に遂行するための業務指示でもあるとみることができること、評価制度やアカウント停止措置があることにより、配達パートナーは、配達パートナーガイドに記載された、会社らの求める詳細な業務手順等に従わざるを得ない状況に置かれており、広い意味で会社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているとみることができます。
「⑥顕著な事業者性」については否定していますが、これは争いがないところでしょう。
4 都労委の結論
そして、都労委は、これらの判断要素を総合的に勘案して、労組法上の労働者に当たると判断したものです。確かに、上記の判断要素については、全ての判断要素が充足されなければならないわけではなく、一部の判断要素が欠けていたとしても労働者性が肯定できないわけではないと思われますが、上記の④や⑤の理由付けについては、若干こじつけたような理由付けであって、説得力が乏しいように思われます。すなわち、④の下線部についていえば、通常の請負の場合であっても将来的な発注量が不明な場合には同様の議論がありうると思われますし、⑤の下線部についても、業務手順に従わざるをえないという点も、可能な限り迅速に配達を行い配達サービスの質を向上させる観点から、請負の目的である配達サービスの内容を定めたものと解することもできないわけではないと思われます。確かに、事業者性があるコンビニ店主などと比較すれば、かなり労働者性は認められやすいようには思いますが、上記のような疑問点からすれば、中労委や裁判所でも同様の判断が下されるのかどうかは未だ不明であって、中労委や裁判所の判断が注目されるところです。