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労働法判例ヘッドライン

2026/03/31

労働法判例ヘッドライン

 今回、労働法チームからは、従業員の他の従業員に対する勤務中の盗撮行為及びその後の対応について、会社の使用者責任や債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)が問題となった事件(鳥取地裁倉吉支部令和7年1月21日判決)をご紹介させて頂きたいと思います。

1 事案の概要

 被告会社は、ガソリンスタンド等を営む会社であり、原告(女性)及び被告従業員(男性)は、いずれも被告会社の従業員で、令和2年8月頃から同じサービススタンド内で勤務していました。
 被告従業員は令和4年7月から同年8月までの間の6日間、勤務中に自己のスマートフォンで、勤務する原告の姿を無断で撮影しました(「本件撮影行為」。なお、被告会社においては、従業員の勤務中のスマートフォン使用は、業務上必要であるとして禁止していませんでした。)。原告は被告従業員の行動に不信感を抱き、防犯カメラの映像を確認したところ、被告従業員が原告の姿を無断撮影していることを知りました。原告は、本件撮影行為をはじめとする被告従業員の行動が理解できず、悩みを抱いて上司に相談しましたが、解消されず、令和4年9月13日、心身症と診断され、被告会社に診断書を提出し、同月15日以降休職しました。
 上記の他、本判決では、以下の事実が認定されています。

① 被告会社は、平成30年11月頃から「ハラスメントは許しません」「相談を受けた場合、必要に応じて関係者から事情を聴く等して事実関係を確認し、事案に応じた適切な対応をします。また、再発防止策を講じます。」旨を記載し、相談窓口を知らせるポスターを掲示していた。令和5年5月にも同様のポスターを掲示し、ハラスメント行為に対する注意喚起をした。

② 被告会社は、令和4年9月14日、原告の上司を通じて本件撮影行為の報告を受け、防犯カメラ映像を確認したにもかかわらず、被告従業員に直ちには事実確認をしなかった(なお、これは、被告会社においては、平成27年11月頃、原告に対する別の盗撮疑義事件が発生し、行為者とされた従業員が退職したことがあった。被告会社としては、本件撮影行為については、盗撮事件には至らないと捉えていたので、過去の事例のように、被告従業員が退職するような事態とならないよう慎重に対応しようとしたことによるものであった。)。

③ 原告の上司は、令和4年9月27日、原告から「心身共に辛く、家族とも相談した上で、今回の件を警察に相談する事になり、相談いたしました。」とのメッセージを受信した。

④ 被告会社は配点換えについても検討したが、被告従業員の異動には勤務するサービススタンドマネージャーの反対が、また、原告の異動には原告及び別のサービススタンドマネージャーの受入拒否があり、配点換えの実施を保留した。

⑤ 原告は、令和5年以降、労働局等に相談した。そして、被告会社の相談窓口は、同年4月頃には、労働局からの連絡により、被告会社の対応が不十分であるとの相談が寄せられている旨を把握し、同年5月20日、原告の要望に基づき、初めて被告従業員に本件撮影行為に関する事実確認をした。この際、被告従業員は撮影行為をしていないと虚偽の説明をしたが、その後、被告会社が原告から同年9月6日付け「損害賠償請求書」を受領したことを受け、改めて事実確認をしたところ、被告従業員は本件撮影行為を認めるに至った。

 原告は、勤務中に被告従業員から盗撮されたことにより、経済的・精神的損害を被ったとして、被告従業員には不法行為による損害賠償(民法709条)等を、被告会社には使用者責任に基づく損害賠償(民法715条1項)等を連帯して支払うよう求め(「請求❶」)、また、被告会社が職場での盗撮行為を防止する対策を構築せず、また、本件盗撮行為後も適切な対策を取らないこと(職場環境配慮義務違反)により精神的損害を被ったとして、被告会社に対し、債務不履行に基づく損害賠償(民法415条1項)等の支払いを求めました(「請求❷」)。 

2 本判決の判断

<請求❶(本件撮影行為の不法行為該当性及び被告会社の使用者責任)について>

 まず、本件撮影行為が被告従業員による不法行為に該当するか否かについて、無断撮影行為の不法行為該当性が問題となった最高裁平成17年11月10日判決(「無断撮影が不法行為上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかで判断すべき」)を引用した上で、原告は被告会社に勤務する一般人で、同僚から無断で勤務中の姿を撮影されることなど通常は想定も許容もしないこと、それにもかかわらず、原告の感情に十分配慮することなく、6日間にわたって近い距離から繰り返し無断で撮影されたこと等を指摘し、本件撮影行為は社会生活上受忍すべき限度を超えて原告の人格的利益を侵害するものであり、不法行為にあたると判示しました。
また、本件撮影行為は、職場内の人間関係を契機とし、スマートフォンの携行が認められつつ原告と同じ場所に勤務するという職務上の地位ないし環境を利用して、勤務時間中に、勤務場所で行われたものといえるから、「事業の執行について」なされたものというべきであるとして、被告会社の使用者責任を認めました。

<請求❷(被告会社の職場環境配慮義務違反の有無)について>

本判決は、原告の主張に対応する形で、本件撮影行為の以前と以後に分けて、被告会社の職場環境配慮義務違反の有無について検討しています。
 まず、本件撮影行為以前について、「職場における盗撮行為は、被告会社の事業の執行にあたって特異な出来事であるといえ、盗撮行為をした職員が在職しなくなった場合、一般的には再発の危険性が高いとはいえないし、業務上必要のないデジタル機器の使用は、特別に周知するまでもなく通常は許容されない行為であると従業員が理解すべきといえるから、過去に盗撮行為があったとしても、ハラスメント行為は許されない旨の告知や相談窓口の周知を超えて、盗撮行為を防止するため、改めて勤務中に業務上必要のないデジタル機器の使用を禁止等する措置を告知したりする義務までは負わない」として、被告会社が必要な体制整備を怠ったとはいえないと判示しました。
 他方、本件撮影行為以後について、「被告会社は、遅くとも令和4年9月末頃には、本件撮影行為に係る原告の訴えが虚偽や勘違いではなく、原告に深刻な精神的苦痛が生じている可能性が極めて高い状況を認識したのだから、労働契約上の付随義務(労働契約法5条参照)として、かねてから周知していた方針に従い、速やかに関係者から事情を聞く等して事実関係を確認し、事実確認を終えた後には、原告が更なる精神的苦痛を被らないよう、配置換えを行って原告が被告従業員に接触しないで済む体制を整える等、原告に対する適切な配慮をしていく義務があった」にもかかわらず「被告会社は、不適切な認識の下、従業員に対してかねてから周知していた方針に反し、事実関係の確認をせず、原告に対する適切な配慮もしなかった」として、被告会社が労働契約上の付随義務に違反したとして、被告会社の債務不履行責任を認めました。

3 留意事項

 従業員が不法行為により第三者に損害を与え、この不法行為が「事業の執行」に関して行われた場合、当該従業員のみならず、その使用者である会社も、損害賠償責任を負います(使用者責任。民法715条1項)。
 本件のように、「事業の執行」に関連して、従業員の他の従業員に対するハラスメント・嫌がらせ等が行われ、これが被害者の人格的利益または「働きやすい職場環境の中で働く利益」を侵害する行為(不法行為)であると評価される場合、会社も使用者責任を負うことがありますので、注意が必要です(なお、会社がハラスメント等の加害者である従業員に対する監督義務を果たした(「注意を尽くした」)と評価できる場合には、使用者責任を免れますが(民法715条1項但書)、実務上、この免責事由は厳格に解釈されており、会社が「注意を尽くした」として免責されるケースは非常に少なくなっています。)。
 また、使用者責任とは別に、会社は、従業員に対し、労働契約の信義則上の付随義務または不法行為法上の注意義務として「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」(職場環境配慮義務)を負っており、これに違反した場合には、債務不履行(民法415条1項)または不法行為(709条)として、被害者たる従業員に対し、損害賠償責任を負うと解されます。なお、この場合、使用者責任とは異なり、加害者の行為の業務関連性の有無にかかわらず、また、加害者が特定できないとしても、被害者に対する直接の責任として、会社の責任が認められる可能性がある点にも注意が必要です。

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