今回は、AGCグリーンテック事件(東京地裁令和6年5月13日)をご紹介いたします。
皆様もご存知のとおり、性別を理由とした差別的取扱は直接差別(均等法6条、施行規則1条)として禁止されていますが、直接的に性別を理由とした差別的取扱でなくても、均等法7条において、
事業主は、「募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置」であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、「措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるもの」については、「当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合」でなければ、これを講じてはならない
と定め、厚労省令では、
①労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とするもの
②労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
③労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること
と定めています。これをみると、厚労省令に定める場合以外には間接差別が成立しないようにも思われますが、衆議院の付帯決議でも厚労省令に定める場合にも間接差別が成立しうることを明らかにされており、厚労省の雇均発0210第2号も、厚労省令に定める場合以外にも成立しうることについて「あくまでも本法の間接差別の対象とすべきものを定めたものであって、これ以外の措置が一般法理としての間接差別法理の対象にならないとしたものではなく」と記載しています。
本件では、家賃の一定割合の負担を総合職にのみ認め、一般職にはそれを認めていないことが問題となりました。ちなみに、この家賃負担は、当初は、命じられた転勤地への通勤が困難と認められ転居した総合職を対象に行われていたのですが、平成30年からは転居の有無に無関係に支給されるようになったものです。
まず、裁判所は、直接差別かどうかについて、一名を除き「全て男性であったのは、社宅制度の適用対象の大半を示す営業職が、女性からの応募の少ない職種であることが原因」であって、性別を理由として差別的取扱ではない。また、設立当初まで遡っても、総合職のみ社宅制度の利用を認める制度設計の背景には、男女の別によって待遇の格差を生じさせる趣旨があったことを推認するに足りる事情は認められない、と述べて、直接差別には当たらないと判断しました。
次に、間接差別かどうかについては、均等法7条・同施行規則2条2号には、「募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であって、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの」が挙げられており、「住宅の貸与」が挙げられていないものの、「①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的理由がないときに講ずること(以下「間接差別」という)は、均等法施行規則に規定するもの以外にも存在しうるのであって、均等法7条には抵触しないとしても、民法等の一般法理に照らし、違法とされるべき場合は想定される(上記衆議院付帯決議を引用)」「措置の要件を満たす男性及び女性の比率、当該措置の具体的内容、業務遂行上の必要性、雇用管理上の必要性その他一切の事情を考慮して女性従業員に相当程度の不利益を与えるものであるか否か、そのような措置に合理的な理由が認められるか否かの観点から、被告の社宅制度に係る措置が間接差別に該当するか否かを均等法の節に照らして検討」すべきと判断しました。
そして、裁判所はかかる規範への具体的な当てはめを行い「少なくとも平成23年7月以降、社宅制度という福利厚生の措置の適用を受ける男性と女性の比率という観点からは、男性の割合が圧倒的に高く、女性の割合が極めて低いこと、措置の具体的な内容として、社宅制度を利用し得る従業員と利用し得ない従業員との間で、享受する経済的恩恵の格差はかなり大きいことが認められる。他方で、転勤の事実やその現実的可能性の有無を問わず社宅制度の適用を認めている運用等に照らすと、営業職の採用競争における優位性の確保という観点から、社宅制度の利用を総合職に限定する必要性や合理性を根拠付けることは困難である。そうすると、平成23年7月以降、被告が社宅管理規程に基づき、社宅制度の利用を、住宅の移転を伴う配置転換に応じることができる従業員、すなわち総合職に限って認め、一般職に対して認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて合理的理由は認められない。」として均等法の趣旨に照らし、間接差別にあたると判断しました。
この判例は、個別の待遇について違いがある場合についてはその待遇の趣旨を検討し、それを総合職に限定する理由が認められないということを認定したうえで、そのことによって事実上女性に不合理な不利益を与えていると判断しており、端的にいえば、総合職と一般職との間の差別的取扱について、その差別的取扱に合理性がない場合には、間接差別にあたる可能性があるということを述べています。
ただし、この判例の論理=「総合職と一般職の差別的取扱に合理性がないということをもって、均等法の間接差別に繋がる」という論理は、総合職と一般職との差別的取扱が男女差別とは全く関係がない差別である可能性もある以上、少し飛躍があるように思われ、議論の余地があるのではないかと考えます。
また、重要な点は、この判例で問題となった会社においては、総合職における男女比率が極めて不均衡(総合職が男性29名女性1名、一般職が男性1名女性5名)という固有事情があったもので、総合職の女性比率が相当程度高い会社については妥当しませんので、必ずしも皆様の会社に妥当するものではありません。 とはいえ、総合職の女性比率が低い会社の場合についていえば、かかる判例の如き議論も否定できない以上、予防法務的観点からは、総合職と一般職との間で合理性の認められない差別的取扱がなされているのか否かについてはもう一度チェックされてみてはいかがでしょうか(また、女性差別と関係がなくても、不合理な取扱自体、従業員の士気を損ねるおそれがあるといえます)。