前月は冬期における事業継続の課題を取り上げました。今月は、季節の転換期である「春」に焦点を当てます。春は新年度対応で社内が慌ただしくなる一方、気象は不安定になりやすく、思わぬ停止要因が重なります。企業法務の観点から、春先に生じやすい気象リスクと、平時からの備えを整理します。
春は一見穏やかに見えても、寒暖差・低気圧の通過・大気の不安定化が同時に進みます。特に注意したいのは次の3点です。
① 融雪・雪代による増水:北日本や山間部では融雪が進み、河川の増水や越水、浸水が起こり得ます。工場・倉庫・データセンター等が低地に立地する場合、設備停止や在庫毀損に直結します。
② 突風・竜巻・雹:春から初夏にかけて突風等が発生しやすく、建物・屋外設備・車両の損壊、停電、物流網の寸断など、影響が広がりやすい点に留意が必要です。
③ 黄砂・大気汚染(花粉も含む):黄砂は精密機器・クリーン環境に影響し、歩留まり低下や再検査増加を招きます。従業員の体調不良による欠勤増も、繁忙期には無視できません。
BCPは「起きてから判断」になりがちです。気象庁の警報・注意報、自治体の避難情報、河川水位情報等を前提に、拠点ごとのハザードマップを確認し、①出社停止・在宅切替、②操業停止、③取引先への連絡開始、といった発動基準を事前に文書化しておきましょう。判断者不在・情報不足の状態での場当たり判断は、結果として安全配慮や説明責任の観点から脆弱になります。
第1に、リスク評価と保険カバレッジの確認です。水災・風災の補償範囲、免責や支払限度、臨時費用(代替拠点費用等)の有無は約款で結論が変わります。拠点移転・設備更新・在庫増減など実態が変わった場合は、補償の空白が生じていないか見直しが必要です。
第2に、従業員の安全確保と賃金取扱いの整理です。出社判断の基準(警報レベル、公共交通の計画運休等)を就業規則・社内規程や運用ルールに落とし込みます。休業時の賃金についても、労基法26条の休業手当が問題となり得るため、「不可抗力」該当性の判断枠組み、在宅勤務への切替手順、連絡手段を整備しておくと紛争予防に有効です。
第3に、重要設備・データ・供給の分散です。浸水想定がある拠点では、サーバーのクラウド化、遠隔バックアップ、重要部品の複線調達、代替倉庫の確保をセットで検討します。黄砂対策として、外気取込口フィルターの強化や清浄度管理の手順(検査頻度・出荷判定)を、品質部門と共同で定めておきましょう。
第4に、対外コミュニケーション戦略です。納期遅延や提供停止が起きた際、説明が遅れるほど信用毀損は大きくなります。BCP発動時の顧客向け通知文案、優先供給ルール、代替提供の条件、プレス対応の一本化を準備しておくことが肝要です。
春の気象リスクは契約条項の出来で影響が変わります。不可抗力条項(対象事由、通知期限、損害範囲、軽減義務)、SLAの免責・クレジット、再委託先や運送業者との責任分界、BCP策定・協力義務の明記など、年度末の更新・改定の機会に棚卸しを行ってください。
春は人事異動で「知っている人がいない」状態が起きやすい季節です。連絡網、保険・契約の保管場所、非常時の決裁手順、ベンダー窓口を引継書に落とし込み、訓練や机上演習で実際に回るか確認しましょう。
春は新年度のスタートと気象変動が重なる時期です。訓練、保険、契約、就業ルールを新年度開始前に一度整え、全社で「判断基準」と「連絡手順」を共有しておくことが、真の事業継続力につながります。
主な研究分野
- 弁護士:
- 中野 明安

