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知財判例ヘッドライン vol.87

2022/07/01

知財判例ヘッドライン vol.87

 今回は、SNS上にリンクを貼ることで他人の著作物をアップロードした事案を、令和2年の最高裁判例を中心にご紹介します。

 本件は、著作者である写真家が、自身の写真が無断でTwitter上にツイート、リツイートされていたため、Twitter社に対してツイートした人とリツイートした人の発信者情報の開示を求めた事案です。

 まず、本件を理解する上で、ポイントとなる知識である、①インラインリンクと著作権、②リツイートとクレジット表記(著作者の氏名表示部分)についてご説明します。

 ①の「インラインリンク」とは、リンク元のページが表示されたときに、自動的にリンク先のページも表示されるように設定されたリンクのことを意味します。インラインリンクの場合には、あたかも、リンク元のページにリンク先のページがコピーされているかのような外観を呈することから、これが著作権(複製権や公衆送信権)の侵害とならないかが問題となります。
 Twitterにおいては、画像付きツイートをすると、ツイート者のタイムラインのウェブページをリンク元、画像ファイルをリンク先とするリンク、すなわち、「インラインリンク」(リンク元のウェブページが立ち上がった時にユーザーの操作を介することなく自動的にリンク先のウェブページにアクセスするリンク)が設定される仕組みとなっています。さらに、上記ツイートをリツイートした場合、リツイート者のタイムラインのウェブページをリンク元、上記画像ファイルをリンク先とするリンク(インラインリンク)が設定されることとなっています。

 上記最高裁判決は直接判示していませんが、第一審及び控訴審のいずれも、リツイート行為における画像の表示は、インラインリンクによって実現されており、リツイートする人が元画像ファイルを複製したり送信したりするものではなく、複製権や公衆送信権の侵害には該当しないと判示しています。学説上も、リンク行為における公衆送信権侵害の成立については消極説が多く、また、著作権侵害の差止請求事件である東京地判令和4年4月22日事件も、インラインリンクの設定行為は著作権侵害に該当しないと判示しています。

 上記のとおり、著作権侵害は否定される傾向にありますが、本件は、問題となった元画像にクレジット表記が表示されており、Twitter上で投稿した場合、Twitterの仕様(トリミング)によりクレジット部分が見切れてしまうという事情があったため、別途、氏名表示権の侵害が問題となりました。

 Twitter社は、リツイート者が著作権侵害となる著作物の利用をしていないことから、氏名表示権の要件である著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」に該当しないと主張しました。しかし、最高裁は、著作権法19条1項の趣旨は、著作者と著作物の結びつきに係る人格的利益を保護するものであると解されることから、著作権法19条1項の適用は、著作権法21条~27条に列挙された著作物の利用行為に該当する場合に限らないとし、その上で、リツイート者が、リツイートによって、著作権侵害となる著作物の利用をしていなくても、各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である画像を表示したことは、著作権法19条1項の「著作物の公衆への…提示」に該当すると判示し、Twitter社の主張を排斥しました。

 また、本件は、Twitterの仕様によりクレジット表記が見切れた画像で表示されていますが、その画像をクリックすると、元画像が表示されます。当然、Twitter社は、クリックすればクレジット表記が表示されるのであるから、氏名表示権の侵害はないという反論も行っていますが、最高裁は、当該事案では画像をクリックするのが通常だという事情も伺われないこと等から、リツイートをした者が著作者名を表示したことにはならないと判示しています(なお、画像を全体表示する仕様は、最高裁判例が出た当時と現在では若干異なっています。)。
そして、結論として、最高裁は、氏名表示権の侵害が認められるとしています。

 もっとも、上記最高裁判決の事案は、発信者情報開示請求事件であったため、リツイートした人に対する損害賠償請求が認められるか否かについては別途の検討(故意・過失等といった要件の検討)が必要となります。

 SNS上における他人の著作物の取り扱いについては注意が必要なため、今回の判例と直近の裁判例の一部をご紹介させていただきました。

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