藤井聡太六冠のめざましい活躍などで一躍脚光を浴びる将棋界。そんな将棋を題材にした「将棋フォーカス」というテレビ番組をご存知でしょうか。この将棋番組は、NHKのEテレで毎週日曜日午前10時から放送されており、将棋講座や著名棋士らへのインタビューなどのコンテンツで将棋初心者から上級者まで幅広い層の視聴者から親しまれているようです。
さて、このたび、この将棋番組のナレーション等が第三者の著作権を侵害するということで、NHKに損害賠償を命じる判決がありました。この事件はニュース報道もされて社会の耳目を集めましたので、今回取り上げてご紹介します。
この事件は、とあるウェブサイトに掲載されていた将棋のマナーに関する文章を、NHKがほとんどそのまま番組のナレーション等として無断使用してしまったという事案です。そして、そのことを知ったウェブサイトの管理者が、著作者人格権(氏名表示権)及び著作権(公衆送信権)の侵害を理由に損害賠償を求めてNHKを訴えたのでした。
なお、NHKは、番組放送の4日後、ナレーションの一部がウェブサイトの文章を無断使用したものであることを認め、自社ウェブサイトに謝罪する旨の文章を掲載するなどしていました。
本件では、無断使用されたウェブサイト上の5つの文章が著作権法の保護対象である「著作物」といえるかどうかが争点となりました。5つの文章は、いずれも将棋のマナーに関するもので、その内容自体は他の書籍やウェブサイトにも掲載されているようなごく一般的なものでしたが、裁判所は、文章の表現(言い回しなど)にも着目し、平凡でありふれた表現の3つの文章については、創作性がないものとして著作物性を否定した一方で、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という2つの文章については、作成者の何らかの個性が表現として現れた創作性のあるものとして著作物性を認め、これら2つの文章に対する著作権等侵害があったとして、NHKに合計5万5500円の損害賠償を命じました。
本件は、一般的な内容を説明するような文章の著作物性を判断するものであり、限界事例に近いものと思われますので、参考にしていただければと思います。

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知財判例ヘッドライン vol.90