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知財判例ヘッドライン vol.92

2024/03/29

知財判例ヘッドライン vol.92

 今回は、商標出願の場面において他人の先願の登録商標との抵触の有無が問題となった、知的財産高等裁判所の令和5年11月15日判決をご紹介いたします。

1 事案の概要

 商標登録においては、いわゆる先願主義が採用されており、出願商標がすでに登録されている他人の登録商標と同一又は類似しており、かつ、他人の登録商標の指定商品若しくは役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするときには、商標登録を受けることができないことになっています(商標法4条1項11号)。
 原告は、下記「本願商標」について商標登録を出願しましたが、特許庁は商標法4条1項11号を理由に商標登録が認められないとして拒絶査定を行いましたので、原告は拒絶査定に対する不服審判請求を行いましたが、原告の請求は認められない旨の審決が下されましたので、原告が当該審決の取消訴訟を提起しました。

2 争点(本願商標が商標法4条1項11号の商標に該当するか否か)

 本件では、本願商標が商標法4条1項11号の商標に該当するか否か、すなわち本願商標と各引用商標とにおける(1)商標の類似性及び、(2)商標を使用する商品・役務の類似性が争点となりました。
 
 (1)の商標の類否の判断に際しては、一般的に、①外観類似(外形的形象が相紛らわしいこと)、②観念類似(文字・図形等から生ずる意味内容において相紛らわしいこと)、③称呼類似(呼び方・発音が相紛らわしいこと)という3つの要素を考察し、具体的な取引状況において商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決するものと考えられています。そして、本件商標のように、文字部分と図形部分で構成される商標については、商標の各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合を除き、その構成部分の一部分だけを抽出し(抽出された部分を一般に「要部」といいます)、当該要部だけを比較してその類否の判断をすることも許されると考えられています。
 原告は、本願商標の「POPPO」という文字部分は鶏を連想させ、図形部分も鶏のとさかを模しており鶏を連想させるとして、両者は一体として結合した商標であって、「POPPO」という文字部分のみを要部として抽出して、商標の類否の判断を行うことは許されない旨主張していました。

3 裁判所の判断

 (1)の商標の類似性に関して、裁判所は、まず、本願商標の図形部分について、鶏の頭部等が描かれていないため一見して何を表すものであるか看取することは困難であり、特定の観念及び称呼が生じると認めることはできず、また文字部分についても、辞書等に掲載がなく、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語として認識されるものであって、特定の観念を生じさせず、「ポッポ」の称呼を生じるものであるとしました。
 したがって、本願商標の文字部分と図形部分は、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、文字部分である「POPPO」の部分を抽出し、当該要部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると判断しました。

 その上で、裁判所は、本願商標の要部たる「POPPO」との比較において、引用商標1については、称呼を共通にし、外観の相違は称呼の共通性による印象を凌駕するほどの顕著なものとは認められないとし、引用商標2については、外観において差異はあるものの、文字のつづりを共通にするものであるから、両者は外観において似通った印象を与えるものであり、称呼においては共通するとして、本願商標と各引用商標との類似性を肯定しました。

 次に、(2)の商標が使用される商品又は役務の類似性について、裁判所は、本件商標と各引用商標は「飲食物の提供」の役務で共通し指定役務が類似する等とし、これについても肯定しました。

 よって、結論として、商標法4条1項11号に該当すると認められるとして、原告の訴えを退け、特許庁の審決を維持しました。

 このように文字部分と抽象的な図形部分を組み合わせた商標を出願する際には、商標の類似性の判断の中で、文字部分のみが要部として抽出され、同部分のみの比較によって類似性が肯定されてしまうおそれがあるものと思われます。
 本件判決はこうした商標の類似性の判断にあたって参考になるものと思われましたので、この場を借りてご紹介した次第でございます。

(文責:内田知希・山下誉文)

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