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知財判例ヘッドライン vol.95

2025/01/31

知財判例ヘッドライン vol.95

 2024年9月11日に、「遠隔シャンパン」という文字商標が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に該当すると判断した裁判例がでました。

 本件は、原告が、「遠隔シャンパン」という文字商標について、指定商品を「シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピューターソフトウェア用のアプリケーション」等として登録出願したものの、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求し、当該審判も不成立に終わったため、知財高裁に対して当該不成立の審決の取消しを求める訴訟を提起した事案です。

 特許庁が公表している「商標審査基準[改定第16版]」(2024年4月1日)では、商標法4条1項7号は、例えば、以下の5つのどれかに該当する場合をいうとしています。

⑴ 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
⑵ 商標の構成自体が上記⑴でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
⑶ 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
⑷ 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
⑸ 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。

 本件は、このうちの⑷の該当性が問題となりました。

 原告は、「遠隔シャンパン」は、原産地統制名称の表示である「シャンパン」とは異なる意味合いがあるため、顧客誘引力へのただ乗りや、表示の希釈化が生じるおそれがあるとはいえないことや、「CHAMPAGNE」の原産地統制名称を保護する等の活動を行っているシャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会から現に何ら申立てもなされておらず、同委員会による具体的な活動が予見されているわけではないこと、また、「シャンパン」の文字が含まれる登録商標が14件存在していること等から、「遠隔シャンパン」が国際信義に反するものではない等と主張していました。

 知財高裁は、「シャンパン」の表示や表示が示す発泡性ぶどう酒については、「世界的に高い名声、信用、評判が形成され、フランス及び同国民の文化的所産というべきものになっており、我が国においても、…多大な顧客誘引力が備わっている」と認定したうえで、本件の商標は、「エンカクシャンパン」だけでなく、「シャンパン」の称呼及び、「シャンパン」の観念が生じると判断し、審決と同様に、「フランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものである」としました。

 なお、原告は、「シャンパン」が含まれる商標は、「遠隔シャンパン」以外にもすでに多数登録されている旨も主張していましたが、知財高裁は、本訴訟の判断が、当該事由の存在によって左右されるものではないという旨を単に指摘しただけで、詳細について取り上げることはありませんでした。
 
 これまでも「シャンパン」を用いた商標について、同様の判断がなされた裁判例(例えば、「シャンパンタワー」に関する知財高判平成24年12月19日)がでているところではありますが、商標の登録が、日本とフランスの友好関係にまで波及し得るとして公序良俗違反を認めた興味深い裁判例としてご紹介させていただきました。

 

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