公正取引委員会は、本年11月22日、大手総合機械メーカーの子会社の金属製品メーカーに対して、金型等を用いて製造する金型及び部品に関して、下請事業者に金型等を無償で保管させる行為が、下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)に掲げる行為に該当するとして、勧告を行いました。
令和5年度においても、同様の金型に関連する下請法違反により公正取引委員会により3件の勧告が行われるとともに、そのような事態を受けて、令和5年12月15日には公正取引委員会と中小企業庁との連名で、金型の関係事業者団体に対して、会員への勧告事例の周知等を内容とする要請が行われています。にもかかわらず、令和6年度においても、同様に下請事業者に対して金型等を無償で保管させる行為を理由として、既に本件を含めて3件の勧告がなされており、金型等の無償保管は、下請代金の減額の禁止違反と並んで、公正取引委員会が勧告を行うための「主力商品」となった感があります。
他の不当な経済上の利益の提供要請の禁止の行為類型と異なって、金型等の無償保管が特徴的なのは、当初は法的に問題がない状態であったものが、その後親事業者から経済上の利益の要請をなしたり、下請事業者から何らの申入れ等がなされていないにもかかわらず、ある時期から違法となってしまうという点にあります。即ち、親事業者が下請事業者に対して、製造を委託する部品等の製品を製造するために用いる金型等を貸与し、引き渡して保管してもらう行為は、下請事業者に対する発注が続いている限りは、保管の対価を支払わなくても違法ではありませんが、その後部品等の製品の発注がなされなくなると、不当な経済上の利益の提供要請に該当して違法となってしまうのです。
親事業者としては、時期は具体的に決まっていないものの、下請事業者に対して、預けてある金型を用いて製造する部品等を今後発注することもあるだろうから、とりあえず預かっておいてもらおうと悪意なく考えて、保管を継続してもらっている場合も多いのではないかと思います。
しかしながら、勧告の事例を見ると、親事業者が下請事業者に対して金型等を無償で保管させる行為が不当な経済上の利益の提供要請に該当するのは、今後当該金型等を用いて製造する部品の発注がなされる可能性がなくなった場合のみならず、長期間にわたり発注が行われていない場合や次回の発注の可能性があるとしても具体的な発注時期やその見通しを示すことができない場合も含むとされている点は留意が必要です。
そのため、親事業者としては、下請事業者に対して、金型等を無償で保管してもらっている場合において、当該金型等を用いて製造する部品等を今後発注する可能性がなくなった場合には、当該金型等を引き上げる必要がありますし、今後発注する可能性がある場合であっても長期間にわたり発注がなされていない場合や具体的な発注時期の見通しを示すことができない場合には、一旦金型等を引き上げるか、保管を継続してもらう場合には、下請事業者と協議の上、相当の保管料を支払う必要があります。
本年11月15日には、経済産業大臣と公正取引委員会委員長の連名で、関係事業者団体約1,700団体に対して、「下請取引の適正化について」が発出され、その中で下請法に従い遵守すべき事項について、親事業者となる会員に対して周知徹底を図るなど、適切な措置を講じるよう要請がなされるとともに、公正取引委員会及び中小企業庁は、今後も引き続き、中小事業者の取引条件の改善を図る取組を進める旨述べられており、今後、下請法に違反する行為については積極的な執行がなされることが予想されます。
下請事業者に対して、金型等を無償で保管してもらっている会社においては、下請法違反とならないように、当該金型等を用いて製造する部品等の製品の発注の有無(可能性)や発注時期の見込み等について、今一度点検することが求められていると言えるでしょう。
(文責:松井秀樹)