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経済法トピックス

電力カルテル事件を振り返る

2024/07/31

電力カルテル事件を振り返る

経済法トピックス

 今月は昨年、1 社当たりとしても、事件当たりとしても過去最高の課徴金額として注目を集めた電力カルテル事件を取り上げたいと思います。課徴金の高額さや、他社に働きかけを行った関西電力が調査開始前の減免申請を行って免除になったことばかりが話題となり、事件の全体像を含めたその他の注目ポイントが見えにくくなっているように思いますので、現時点での振り返りを行いつつ、3つに絞ってお伝えしたいと思います。

1 違反事件の経緯と全体像について

 まず、事件の背景ですが、旧一般電気事業者といわれる大手電力会社の地域独占の供給体制が 2000 年から徐々に自由化されていく中で、西日本において、大規模工場や企業といった大口顧客向けの高圧電力の電気料金を大幅に下げる安値競争が激化し、次第に電力各社の収益環境が悪化していったようです。
 そのような中で関西電力のトップ級の役員が、中国電力、中部電力、九州電力の幹部らにそれぞれ面会し、「うちは荒っぽいことをやめるので、お互いに荒らさずにやりましょう」と持ちかけ、その後それぞれの供給区域についての相互不可侵、すなわち相手方の供給区域での大口顧客獲得競争を制限する合意が成立した、というものです。
 

 これを公取委は、関西電力と電力各社の供給区域別に3つの異なる一定の取引分野を画定し、3つの違反行為として構成しています。これは、電力各社が関西電力との間で合意した内容が、地域分割型(中部区域)、入札談合型(九州区域)、両者の混在型(中国区域)といったようにそれぞれ異なることによるものと考えられます。
 その上で、調査開始前第1位の減免申請を行った関西電力は課徴金が免除される一方、中国電力は 700 億円超、中部電力とその子会社は 274 億、九州電力は 27 億円の課徴金が課されました。

 
 課徴金額が各社で大きく分かれたのは、カルテル合意した販売先の範囲の差などのほか、九州電力は令和元年の法改正で導入された調査協力減算制度の適用第1号として 30%(=調査開始後1位の 10%+調査協力減算 20%)の減額を受けた一方、中国電力や中部電力は減免申請をしなかったことが挙げられます。
 事件の背景からは、電力小売の全面自由化という新たな事業環境で自社のシェアが脅かされる焦りなども影響したと考えられますので、従前規制等で守られていた業界などはこうした独禁法リスクの高さにはくれぐれも注意が必要だと思います。また、課徴金が免除された関西電力は、課徴金が課されていれば 1000 億円を超えた可能性があると言われていますが、減免申請をしたきっかけは 2020 年秋に外部から独禁法上問題となる行為をしているのではないかとの情報を受けてのものでした。こうした情報に接した際に迅速な対応をとるかどうかで極めて大きな差が生じることを示す格好の事例だと思います。

 なお、関西電力がそのような対応が可能だったのは、2019 年に金品受領問題の発覚を受けて独立のコンプライアンス委員会を設けたことが大きかったと電力・ガス取引監視等委員会の初代委員長のインタビュー記事に出ていました(朝日新聞・2024-4-25 夕刊)

2 働きかけを行った会社の課徴金の全額免除について

 他の 3 社に話を持ちかけた関西電力が課徴金の全額免除を認められたという不条理感は法的にはどうしようもないのでしょうか。実際、持ちかけられた方の電力会社の幹部からは「納得がいかない」との恨み節も漏れたと報道されています。
 
 課徴金減免制度には失格事由があり、その一つに他の会社に違反行為をすることを「強要」した場合がありますが、強制の要素のない本件ではこれには該当しないと判断されたと考えられます。また、カルテルにおいて主導的な役割を果たした違反事業者には課徴金の割増算定率が適用され、本件もこの要件に該当した可能性がありますが、課徴金が免除されていますので、実際上の影響はないことになります。残るは、違反行為が既になくなっている場合にも、「特に必要があると認める場合」に出せる排除措置命令が考えられますが、本件では社内調査で違反行為を確認して調査開始前に第 1 位の減免申請を行ったことや、自発的に排除措置命令と同程度以上の再発防止措置を講じていることなどが考慮されて(担当官解説・公正取引 871 号)、出されていません。課徴金免除者に対しては排除措置を命じないとする実務は定着しているとの評価もあります。
 この点については、関西電力が3つの違反行為全てにおいて主導的役割を担っていることから、何らかの措置を命ずるべきだった、との意見もあるところです(伊永大輔・ジュリスト No.1586)。

 なお、公取委が重視した関西電力の自主的な取組みのうち、同社が考える本件の発生原因と再発防止策は、同社が公表している「電力・ガス取引監視等委員会への報告概要」に違反に至る経緯とともに記載されており、実務上も示唆に富む内容となっています。

3 課徴金減免申請をした事件について争うことについて

 本件については、関西電力を含めた 4 社全てで株主代表訴訟が提起されているほか、減免申請をして、30%の課徴金の減免を受けた九州電力が「カルテルの合意はなかった」として公取委の処分の取消を求めて訴訟を提起するという極めて珍しい展開となっています。同社は「関電と原子力分野などでは従来やりとりがあったが、安値料金の提示を制限することを持ちかけられたり、具体的な意向を示したりしたこともない」と主張しているようです。
 
 減免申請をした会社が、その違反事件についてなされた行政処分を争うことができるのかという疑問も生じますが、法的には「可能」と整理されています。減免申請は「当該違反行為にかかる事実の報告及び資料の提出」を行うものなので、報告した事実の法的評価を争うことは当然あり得ると考えられるからです。法的には一応このようにいえるのですが、実際上は違反(違法性)の認識を前提に減免申請を行うという判断をしているのが通常ではないかと思われますので、処分取消訴訟の提起自体や判決の理由等は、今後の減免申請の実務にも影響を与える可能性があるのではないかと思います。

(文責:井上能裕)

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