「ご承知の通り、大規模災害が発生し、企業活動が滞ると、その影響は各企業にとどまらず、その地域の雇用・経済に打撃を与え、さらには、取引関係を通じて他の地域にも影響を与えることが懸念される。このため、災害時における企業の事業活動の継続を図る「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」の策定を促進することは、我が国社会や経済の安定性の確保と海外から見た我が国企業の信頼性向上のために極めて重要である。」
これがBCPを促進する重要な目的です。しかし、一方で、普及率はまだまだと言えると思います。これまで、国土強靱化年次計画 2021 において、BCP の策定割合の目標値が大企業は 100%、中堅企業は 50%とされていて、この目標に対して、「企業の事業継続に関する実態調査」が内閣府で平成 19 年度から隔年で実施されています。BCP を「策定済み」の企業の割合は、大企業で平成 19 年度では19%に過ぎなかったところ、令和3年度は70.8%へ、中堅企業で平成 19 年度の 12%から令和3年度は 40.2%となっています。また、「策定済み」に「策定中」を加えた数値で比較すると、大企業で平成 19 年度の 35%から令和3年度は 85.1%へ、中堅企業で平成 19年度の 16%から令和3年度は 51.9%と堅調な推移を見せています(令和元年度の調査では52.9%との結果が出ていましたが、回答事業者が異なることからの「微減」と思われます。)。
この数字を見れば、大企業は相応の対応がなされていることが分かりますが、中堅企業は約半数に留まっておりBCPの浸透が行き渡らないことが見て取れます。しかも、このようなアンケート調査に回答して下さる企業はBCPについての意識が高いことが想定されるのですから(令和3年度の調査対象会社は全体で 6,026 社に対し、有効回答数 1,839 社、回収率は 30.5%、中堅企業については 調査対象会社2,006に対し、有効回答数607社、回収率 30.3%)、全体としての割合はもっと低いものとなると推定されますし、さらに日本の産業構造で圧倒的な数を占める中小企業においては、この傾向からすれば、さらに策定率は低いものと推定されます。中小企業は、我が国421万企業のうち99.7%を占めています。従業者数でも全体の7割を占めています。このような状況下で日本の産業が維持出来るか、とても心配になります。
全体としての策定率を向上させるためには、サプライチェーンでの取り組みを実施すること、親会社、グループ会社から声がけ(要請)をすること、が効果的なのかなと思っていますが、一方、そのような声がけに呼応する立場の企業の皆さんには、ぜひ、「自然災害による被災体験」をした企業がどのような復旧及び事業継続の取り組みを行ったかを知って頂く事が重要と思います。
平成7年の阪神淡路大震災、平成23年の東日本大震災、平成28年の熊本地震など、被災した企業が何を苦労し、復旧までどのような取り組みをしたのか、知れば知るほど、予め準備をしておくことの重要性を感じ取ることができると思います。
また、関東弁護士会連合会では平成29年のシンポジウムで「将来の災害に備える平時の災害対策の重要性」で小冊子「事業継続に求められる企業の安全配慮義務と安全対策」を作成しました。オンラインでも公開されています(私が座長で取り組みました。)。
http://www.kanto-ba.org/symposium/detail/file/h29_jirei.pdf
災害に関する裁判例を取り上げて,そこから得られる教訓を抽出し,これに解説を加えることが防災や事業継続を目指す事業者の皆さんにとり有益であろうというからの取り組みです。ぜひご覧いただければと思います。
主な研究分野
- 弁護士:
- 中野 明安