2024年度(2024年4月~2025年3月)において、公正取引委員会が、独占禁止法に違反する行為が行われたとして、排除措置命令を行った事例は合計で21件(対象事業者延べ61名)ありました。各事案の概要は以下の表のとおりでして、内訳としては、価格カルテル4件、入札談合6件、受注調整6件、不公正な取引方法5件となります。
No | 日付 | 違反事業者等 | 違反事項 | 備考 |
1 | 2024/5/15 | 熊本県漁業組合連合会 | 拘束条件付取引 | ✓ 管轄区域内の海苔生産者の乾海苔の販売先を制限した事案 |
2 | 2024/5/15 | 佐賀県有明漁業共同組合 | 拘束条件付取引 | ✓ 管轄区域内の海苔生産者の乾海苔の販売先を制限した事案 |
3 | 2024/5/22 | 日本ゼネラルフード㈱ ㈱魚国総本社 メーキュー㈱ ほか5社 | 入札談合 | ✓ 名古屋市が発注する中学校スクールランチ調理等業務の入札談合事案 ✓ 課徴金額合計3億9296万円 |
4 | 2024/5/30 | 東武トップツアーズ㈱ ㈱日本旅行東北 名鉄観光サービス㈱ ㈱JTB 近畿日本ツーリスト㈱ | 入札談合 | ✓ 青森市が発注する新型コロナウイルス感染症患者移送業務の入札談合事案 ✓ 算出された課徴金額が100万円未満であったため、課徴金は課されていない |
5 | 2024/6/27 | ㈱ハマイ ㈱宮入バルブ製作所 宮入商事㈱ 東京宮入商事㈱ 富士工器㈱ | 価格カルテル | ✓ LPガス容器用バルブの製造販売業者らによる価格カルテル事案 ✓ 課徴金額合計7億964万円 |
6 | 2024/7/26 | ASP Japan合同会社 | 抱き合わせ販売 | ✓ 内視鏡洗浄消毒器とこれに用いる消毒剤の抱き合わせ販売事案 |
7 ~ 15 | 2024/10/31 | 三井住友海上火災保険㈱ 損害保険ジャパン㈱ あいおいニッセイ同和損害保険㈱ 東京海上日動火災保険㈱ 共立㈱ | 価格カルテル、入札談合等(計9件) | ✓ 損害保険会社らによる独占禁止法違反行為合計9件 ✓ 課徴金額9件合計20億7164万円 ✓ 本件の違反行為の多くが共同保険の組成過程において行われていたことを踏まえて、公正取引委員会は「共同保険に係る独占禁止法上の留意点等について」を作成・公表 |
16 | 2024/12/19 | ㈱関家具 | 再販売価格の拘束 | ✓ 取引先小売業者に対する再販売価格の拘束事案 |
17 | 2024/12/24 | ㈱MCデータプラス | 競争者に対する取引妨害 | ✓ 自社が提供する労務安全サービスのユーザーに対し、他社の労務安全サービスへの切替えをしないようにさせた事案 |
18 ~ 19 | 2025/3/13 | ㈱アグロジャパン 小田島商事㈱ MPアグロ㈱ | 入札談合(計2件) | ✓ 山形県が発注する豚熱ワクチン及び山形県畜産協会が発注する動物用ワクチンの入札等参加事業者による入札談合事案 ✓ 山形県動物薬品器材協会の会合という名目で本件違反行為に係る話合いを行っていた事実等が認められた ✓ 課徴金額2件合計567万円 |
20 | 2025/3/24 | 日精㈱ 住友重機械搬送システム㈱ フジパスク㈱ IHI運搬機械㈱ | 受注調整 | ✓ 機械式駐車装置メーカーによる水平循環方式分離式の機械式駐車装置の設置工事の受注調整事案 ✓ 課徴金額合計4億7026万円 |
21 | 2025/3/24 | 新明和工業㈱ 日本コンベヤ㈱ エヌエイチパーキングシステムズ㈱ IHI運搬機械㈱ | 受注調整 | ✓ 機械式駐車装置メーカーによるエレベーター方式パレット型の機械式駐車装置の設置工事の受注調整事案 ✓ 課徴金額合計5587万円 ✓ 本事案及びNo.20の事案の違反事業者6社のうち複数の会社の営業担当者が、立体駐車場工業会を通じて連絡を取り合うなどして、当該違反行為に関与していた事実が認められた |
また、2024年度において、公正取引委員会が、独占禁止法に違反すると疑われる行為が行われたとして、確約計画の認定を行った事例は合計で3件(対象事業者延べ3名)でした。内訳としては、私的独占1件、優越的地位の濫用1件、抱き合わせ販売等1件となります。
以下のグラフは過去5年間(2020年度〔令和2年度〕から2024年度〔令和6年度〕)の排除措置命令、課徴金納付命令及び確約計画の認定とを合わせた法的措置の件数を集計したものですが、このグラフから読み取れるように、2024年度の法的措置件数が従前に比べて大きく増加していることが独占禁止法の執行状況として注目されるところです。主な押し上げ要因は大手損害保険会社らによる違反事例(上記表No.7~15)であり、例年に比して価格カルテル及び入札談合(受注調整)の件数が多いことも特筆されます。なお、2024年度の排除措置命令件数(21件)は過去10年間でも最多となります。

上記の執行状況からすると、一般的な傾向として、公正取引委員会による独占禁止法の執行が活発化しているものと評価し得るところでございます。
このような傾向との関係で言いますと、公正取引委員会事務総局の定員は最近5年間で100人以上増員されており(過去25年間で1.5倍以上増員)、また、経験者や弁護士等の任期付職員の積極的な採用(直近でも、2025年2月に任期付職員として弁護士38名(過去最大)の公募が開始されました。)を通じて職員のバックグラウンドも多様化しているなど、公正取引委員会は組織として大きく拡大・拡充傾向にあるといえます。さらに付け加えると、2024年度には公正取引委員会の事務総局職員を対象とするエンゲージメント調査が実施され、拡大しつつある組織のパフォーマンスの最大化に向けた取組の検討・実施が進められています。このような状況を踏まえると、公正取引委員会の執行体制は今後さらに強化されていくものと考えられ、今年度は、昨年度と同様またはそれ以上に活発な取り締まりが行われることが予測される状況にあるということができます。
特に、2024年度には価格カルテル、入札談合(受注調整)事例が多く取り上げられましたが、このうち複数の事案において、業界団体の活動・会合を通じて違反行為が行われた事実が認定されております。皆様におかれましても、万が一にも違反行為に巻き込まれてしまうことがないよう、これを機に、ご所属の業界団体の会合等において独占禁止法に抵触するようなやり取りが行われていないかを改めてご確認いただくと共に、必要に応じて、従業員への注意喚起や社内マニュアルの整備等の諸対策をご検討いただいてはいかがでしょうか。対策・対応についてお悩みの点などございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。
(文責:内田知希)