ニュースレター登録

Legal Contents 法務コンテンツ

長島 亘成瀬 健太郎神代 優木村 一輝松本 伸也

適度な政策保有株式の継続保有の勧め

2023/04/28

適度な政策保有株式の継続保有の勧め

 政策保有株式の売却、すなわち株式持ち合い解消の流れが止まらない。一番の要因は、東証が定めたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の原則1-4で、「上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。」として、まるで政策保有株式を保有し続けることが悪であるような決め付けをしているからであろう。更には、議決権行使助言会社であるグラス・ルイスが2021年から、同じくISSが2022年から、前者が純資産の10%超、後者が純資産の20%以上の政策保有株式を保有する上場会社の役員の選任議案に反対推奨するとの数値基準を新たに設けたことも影響しているものと考えられる。国内機関投資家もこれを真似た動きも出てきているようである。

 株式持ち合いがどうしてこれほど目の敵にされるのだろうか。その淵源を探れば、1989年に開始された日米構造協議に辿り着く。この源流から、構造改革・規制緩和が既定路線とされ、この流れの一環としてのソフト・ローの推奨、この文脈の中でのCGコードの創設、挙げ句に原則4-1へと展開されたと解される。この間、バブル崩壊に伴い、上場企業の不祥事が相次いで露見し、上場企業のガバナンスに対する信頼が著しく毀損され、ガバナンス不在の一つの原因として過度の株式持ち合いが注目された。このことも、株式持ち合いそれ自体に悪印象を植え付けたことも無視できない要因であったと思われる。そのためか、東証は、CGコードを通じて、一方的に株式持ち合いの解消を是とし、上場企業をその方向に誘導したがっているようにみえる。ただ、日本企業の株式持ち合いは独特であるという指摘があるが、日本企業の強みを支える一つの要因とも評されてきた。確かに、株式持ち合いには、敵対的買収に対する防止効果、経営の安定性・一貫性を保持する効果及び取引先との関係強化等といった合理的な利点があり、実はこの利点は今でも色褪せてはいないのである。


 ところで、過度な株式持ち合いによる弊害がある一方で、やはり過度な株式持ち合いの解消=安定株主比率の過度の低下によっても弊害が生じることもまた明らかである。アクティビストといわれる村上系ファンドなどによって、株式を買占められた会社が、資産の売却や金融機関からの借入れを強いられ、それを原資として自己株取得による買い戻しを余儀なくされるケースなどが目立っているからである。また、目下進行中の例でみれば、米国のアクティビストであるバリューアクト・キャピタル(以下「バリューアクト」)のセブンアイ・ホールディングス(以下「セブン」)への執拗な噛みつき行為である。セブンの4月25日付けの発表文によると、バリューアクトがセブンにアプローチをしてきたのは2020年11月であり、その後「30回以上に亘り対話を繰り返し」てきたとのことである。日々の経営に没頭し、全力投球をしなければならないセブンの経営層が、短期利益を追ってマネーゲームに勤しむ相手に、膨大な時間とコストを費やさなければならないことは、セブンにとっても、バリューアクト以外の株主にとっても不幸以外の何ものでもないことは明らかだろう。

 
 セブンの議決権行使可能株式総数のたかだか4%台の保有比率しかない相手にどうしてそれだけ神経質ともいえる対応をとらざるを得ないのかといえば、やはり株式持ち合い解消に伴う安定株主比率の過度な低下という要因が大きいように思われる。セブンの政策保有株式の方針については、本音はともかくとして、「保有株については毎年見直しを行い、保有する意義・効果の薄れた株式について、投資先企業の状況等を勘案したうえで売却を進めるものとします。」としてCGコードに平仄を合わせている。

 しかし、これらの事象を目の当たりにすると、マネーゲームのターゲットとならないための予防策であることを理由として、適度に政策保有株式を継続保有することは、相当の説得力を有するものと考えられる。これを推奨するゆえんである。

主な研究分野

Legal Conents法務コンテンツ