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関西スーパー事件は、なぜ逆転をしたのか

2022/02/28

関西スーパー事件は、なぜ逆転をしたのか

 昨年末に世間を賑わせた関西スーパー事件は、H2Oリテイリングと関西スーパーマーケットという上場会社間の経営統合(株式交換)に対して、オーケーが関西スーパーへ別の統合提案を行い、そして、当該経営統合に関する関西スーパーの株主総会決議においては議決権行使の集計に一悶着があった(さらに、問題となった議決権は可否を分けうるものだった)ことなどから、オーケーから裁判所へ当該経営統合を差し止める仮処分が申し立てられ、裁判所においても結論が逆転するという、まさに事実は小説より奇なりという事案でした。

 このように、本件について指摘しうる事実関係は多岐に亘ってしまいますので、令和3年10月29日の関西スーパー株主総会に関するエッセンスのみ振り返りますと、

 関西スーパーの株主であるA社は、会社原案に賛成する旨の書面を事前提出していた。もっとも、A社副社長(B氏)は、当日、株主総会に出席した。

 株主総会では、経営統合議案について投票(マークシートの提出)が行われ、B氏は、未記入のマークシートを提出した。なお、その提出時、B氏は「議決権行使を既に発送しているがどうしたらいいか」というニュアンスのことを担当者に尋ね、また、「後で(受付)番号とかで突き合わせて分かるから、いいか」などと述べていた。

 投票用紙について、「ご記入のない場合は棄権」とする説明がなされていた。

 投票用紙の回収後、(A社の投票が棄権と扱われ)集計された際の賛成は65.71%であった(注:株式交換等の承認には3分の2≑66.7%の賛成が必要であり、左記賛成票はこれに満たない。)。

 集計等が続く中、B氏は、関西スーパー側へ、上記用紙は白紙で提出したが、事前の意思表示(=会社原案に賛成)どおりに扱われているかを確認してほしいなど申し入れた。

 議長は、A社の議決権行使を賛成として取り扱うこととし、同議案は賛成66.68%で可決承認とされた。

というものでした。数日後に、(裁判所により予め選任されていた)総会検査役から裁判所に対し、上記経緯を含む報告がなされたところ、オーケーは、上記総会決議には法令違反があるとして、本件の株式交換を差し止める申立を神戸地裁に行いました。

①神戸地裁は、令和3年11月22日付、(また関西スーパーの異議を受けた後の)26日付で、いずれも株式交換差止めの仮処分を認めました。
 しかし、関西スーパーが更に異議(抗告)を行った結果、
②大阪高裁は、令和3年12月7日付で当該仮処分を取り消す決定をし、同月14日に、最高裁も大阪高裁の判断を支持し、司法判断は決着となりました。
(オーケーは、関西スーパーとの統合を断念すると発表しました。)

 上記の司法判断について振り返る前提として、A社のように事前に議決権行使書を提出している株主が株主総会に出席した場合、「事前の議決権行使は撤回され、改めて総会の場で議決権を行使する必要がある」とされるのが株主総会実務()です。
 
 そのため、B氏が総会にて行った投票をどう解釈するかが、上記①神戸地裁と②大阪高裁の判断を分けることとなりました。

 すなわち、まず①神戸地裁は、議決権行使は客観的に解釈されるべきで、表意者の真意が影響を及ぼすことはないとして、投票用紙の記載、提出/不提出という事実のみによって客観的に決せられるとしました(具体的には「棄権」と判断)。

 これに対し、②大阪高裁は、投票用紙の記載や提出/不提出により客観的に判定されることが第一義的としつつも、

「投票のルールの周知や説明がされておらず、そのために株主がこれを誤認したことがやむを得ないと認められる場合であって・・・その誤認のために投票に込められた投票時の株主の意思が投票用紙と異なっていたことが明確に認められ、恣意的な取扱いとなるおそれがない場合には・・・投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより株主の投票内容を把握することも許容される」

としました。

 その上で、本総会において投票ルールの周知等はされておらず、また上記※の実務が出席株主共通の理解にもなっておらず、そして、B氏の上記投票時のやり取りや、B氏が投票後に自ら申出を行い、総会検査役へ当該投票の趣旨等を説明していることなどを踏まえ、A社の議決権を賛成としたことは許容されると判断しました。
(なお、②決定は、投票用紙以外の事情として、B氏の認識はこうだった、さらにはB氏が投票時に担当者と話している際に投票用紙のどの部分を指し示しているかなども含め、A社の株主意思に関して非常に詳細な認定を行っているのが特徴的です。)


 本件のように、議決権行使の解釈について、(出席した株主の言動など)投票用紙以外の事情を考慮する構成は、従前の裁判例(東京高裁令和元年10月17日判決)でも見られていたところです。もっとも、本件の事実関係は特殊でもあり、また、最高裁は「結論において是認する」と述べるに留まっていて、上記下線部のような規範がどこまで妥当するかは未知数と言えます。

 また、株主総会に携わるものとしては、上記()のような実務について一般株主に理解されているとは認められないと認定されたことが非常に印象的で、このような総会関係者にとっては「当たり前」の実務についても丁寧な説明を行うことが、株主総会の安定的運営に非常に重要だと改めて気付かされるものでありました。さらに、会社様にて、投票が予定される株主総会に出席する側となった場合には、その際にもシミュレーションを含めた事前の準備が必要になると思われます。

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