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長島 亘成瀬 健太郎木村 一輝松本 伸也

改めて、インサイダー取引規制に関するご確認を

2024/10/31

改めて、インサイダー取引規制に関するご確認を

1 関係当局でインサイダー規制違反との報道

 今月、金融庁に出向中の裁判官が、同庁ないし財務局が所管するTOB(公開買付け)に関する情報などを基に複数回のインサイダー取引を行った疑惑があるとして、証券取引等監視委員会が強制調査を行ったとの報道がありました。
 さらにまた、東証の従業員が、自身が担当するTOBに関する情報を親族に伝達し、親族がインサイダー取引を行ったということで、やはり証券取引等監視委員会が強制調査を行ったとの報道もなされました。
 従前から、(インサイダー取引規制への理解が不十分なために生じてしまう)「うっかりインサイダー取引」には気をつけようということは言われてきましたが、TOBを所管する金融庁の担当官(しかも裁判所からの出向者)や、公正な市場運営を謳う東証の担当者において、典型的と思えるインサイダー取引規制違反が行われたなどという上記報道は、非常な驚きをもって受け止められています。

2 株式報酬の付与に関連し、内閣府令が改正

 インサイダー取引規制については、本年9月、上場会社の役職員に対する株式報酬がより柔軟に行われるよう、規制の適用除外要件を拡大する方向で内閣府令を改正するなどしていたところでした。
 すなわち、株式報酬の付与等に際しては、
 ① 株式報酬のための株式発行等に関する決定が、インサイダー取引規制上の重要事実に該当しないか
   (そのため、事実が未公表の段階では、例えば自己株取得などに影響が生じうる、
   また、その他の情報管理等のコストが生じる。)
 ② 自己株式を付与する際に、未公表の重要事実がある場合に、インサイダー取引規制に違反するのではないか
   (一方、新株を付与する場合には、インサイダー取引に該当しないと解される。)
 といった点が問題になると解されてきました。

 これらの点に関して、まず①の株式発行(株式の募集)の決定については、従前より、重要事実から除外される軽微基準として、
  払込金額の総額が1億円未満と見込まれること
 が設定されていました(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49条1項1号イ)。
  もっとも、株式報酬の活用の拡大等もあり、今回の改正において、上記の金額基準に加え、
  希薄化率が1%未満と見込まれること
 という希薄化基準が追加されることになりました(同号ハ)。
 これにより、いずれかの軽微基準をみたせば、その株式発行の決定は重要事実から除外されることになります。
 なお、本改正の施行日は令和7年4月1日とされています。

3 「インサイダー取引規制に関するQ&A」も拡充

 また、②の点については、金融庁・証券取引等監視委員会が作成・開示している「インサイダー取引規制に関するQ&A」が参考となります。同「Q&A」「応用編」が昨年改正された件は昨年12月のニュースレター本欄においてお知らせを致しましたが、本年も主に株式報酬等の関係で改正がなされました。
 具体的には、株式報酬との関係では従前よりQ&Aが設定されており、例えば「応用編(問8)」
「上場会社が、役職員等に対して、その職務執行の対価として一定期間の譲渡制限が付された現物株式を自己株式の処分の方法により付与する場合、インサイダー取引規制との関係で問題がありますか」
 においては、「(答)」として、
「一般的な内容の譲渡制限付株式の付与であれば・・・当該付与が当該『重要事実』と無関係に行われたことが明らかであれば、インサイダー取引規制違反にはなりません」
 などとされてきました。
 今回、さらにQ&Aが追加され、いわゆる事後交付型株式報酬(対象期間の経過後に、勤務の継続や業績の達成度合等に応じて株式を付与)についても同趣旨の見解が示されるなどしております。
(但し、個別の件において、自社が予定している株式報酬が「一般的な内容」といえるのか、「重要事実と無関係」といえるのか、などは慎重に検討を行う必要があると思われます。)

4 インサイダー取引規制への対応についてご確認を

 このようにインサイダー取引規制に関する改正が行われている中で、冒頭のような事案が発生してしまいました。
 証券取引等監視委員会は、その開示資料の中で、上場会社のインサイダー取引規制管理体制について、規程の不備がないか(そのほか、アクセス制限等の情報管理、売買管理体制などに不備がないか)、職務上不要な情報の伝達がないか、研修等を実施しているか、といった指摘を行ってきましたが、関係当局自身にも耳が痛い指摘となりそうです。
 他山の石として、上記のようなポイントを改めてご確認ください。

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