1 アクション・プログラムを受けた改訂
本年10月21日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の令和7年度第1回が開催されました。
本年6月30日には、金融庁が「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた アクション・プログラム 2025」を公表し、コーポレートガバナンス・コードの改訂を掲げていました。このアクション・プログラムでは、「コードのスリム化/プリンシプル化」にも言及されています。コーポレートガバナンス・コードに定められた原則については、上場企業は対応したり、対応状況について開示しなければなりません。もっとも、コーポレートガバナンス・コードは増殖し続けており、その対応・開示の負担の大きさが指摘されていました。そのため、コーポレートガバナンス・コードの策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇所等を削除・統合・簡略化し、また、すでに法制化された内容との重複排除に努めるとされています。
2 改訂のネタ
今回の「改訂ネタ」としては、以下のようなものがあります。
① 簡素化
コードは改訂ごとに増殖を続けており、現在は、基本原則5個、原則31個、補充原則47個となっています。この補充原則については、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありませんが、重要な補充原則があることも確かです。そこで、重要性が認められ、かつ、コンプライ・オア・エクスプレインの規律に付する必要性が認められる補充原則は原則に格上げすることが想定されています。また、補充原則のうち、必要性が低下する等したものについては削除、コンプライ・オア・エクスプレインの対象にするのが適切ではないものは、補充原則から外し、原則の「考え方」に落とすこととされています。このような整理により、補充原則はかなりすっきりするものと考えられます。
② 稼ぐ力の向上
まず、経営資源の配分先としては、設備投資やスタートアップ等への投資等の成長投資だけではなく、人的資本や知的財産への投資等、様々な投資先があります。そのため、多様な投資先があることを認識することが重要になります。また、それを踏まえて、現状の資源配分の適切性を不断に検証することも重要になります。これらを実施することで、経営資源の最適な配分実現ができるわけですが、取締役会の実効的な監督や更なる開示を通じて、このような取り組みを促すようなコード改訂が想定されています。
③ 情報開示の充実・投資家との対話促進
本年の株主総会では有価証券報告書の総会前開示が話題になりました。本年3月28日に金融庁が総会前開示の要請を出したことにより各企業は対応を迫られました。その結果として、3月決算の会社全体では57.7%が総会前開示に踏み切っています。前年は1.8%であったことからすると、飛躍的な向上です。金融庁は、総会3週間以上前の開示が最も望ましいとして、そのための取り組みを継続する意思を示しています。これを受けて、総会前開示の取り組みを促すようなコード改訂が想定されています。
3 今後の方向性
コードの改訂から外れますが、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた アクション・プログラム 2025」では、その他の論点にも触れられています。
上記の総会前開示の文脈において、株主総会資料の書面交付の不要化・電子化に触れられています。株主総会資料の書面交付が有価証券報告書との一体開示の障害となっているとの指摘があったのは事実です(総会前開示をしようとする場合には、有価証券報告書と事業報告の一体的開示が視野に入るわけですが、書面交付請求がなされた場合には、交付しなければならないのか、交付するとしても、何を(どの範囲で)、どうやって交付するのかについては、明確になっていない点もあります。)。そこで、企業による株主総会前の適切な情報提供の取組が容易となるよう、「株主総会資料の書面交付の不要化・電子化を含めた株主総会に係る法制面の整理等の推進策について、関係省庁(法務省・経済産業省)との連携を進める。」とされています。書面交付請求をする人の多くが、実は、ネット証券の口座を持っている人であるなど、本来的に想定されている人(デジタルに不慣れな人)ではないとの現状認識もあり、このような議論となっています。
今後、株主総会の在り方も含めて、コードの改訂の議論がなされることが想定されるため、注目する必要があります。

