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神代 優木村 一輝尾臺 知弘武田 仁

クマ対策と法律

2025/11/28

クマ対策と法律

1 クマ対策についての政府決定

 連日、クマ被害が報じられていることもあり、政府は「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」を開催し、対策に乗り出しました。
 政府の統計によれば、クマによる人身被害(死者)は令和5年が6名、令和6年が3名であったものが、令和7年9月末時点ですでに12人となっており、連日の報道と相まって、クマ問題は政府として無視できない状況になっています。
 そのような状況を踏まえて、政府は木原内閣官房長官を議長として「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」を開催しています。同会議は11月に「クマ被害対策パッケージ」をまとめました。
なお、政府としてこれまでクマ被害への対策を全くやっていなかったわけではありません。政府は令和2年から「クマ被害対策に関する関係省庁連絡会議」を開催したり、令和6年には「クマ被害対策施策パッケージ」を公表して、対応を行ってきました。

2 クマの駆除と法律

 クマ被害対策パッケージの中では、「人の生活圏においては、出没したクマを確実かつ迅速に排除する」とされ、駆除する方向性を明確に打ち出しています。

 その方針の下で、
・緊急銃猟制度の着実な理解促進(緊急猟銃制度の市町村への説明会等)
・自治体の緊急対応体制整備への支援(市町村による緊急猟銃制度マニュアルの作成支援等)
・警察によるライフル銃を使用したクマの駆除
・緊急銃猟における捕獲者の不安等の払拭(緊急銃猟における民事責任、刑事責任、行政処分の考え方の周知)
などの駆除対策が「クマ被害対策パッケージ」に盛り込まれました。

 クマへの銃器の使用については、様々な法律でルールが定められています。

 まず、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律等により、猟銃の所持許可・狩猟の免許を得たハンターには銃器を使用した鳥獣の捕獲(狩猟)が認められています。ところが、同法38条により、日出前・日没後や、住宅集合地域等では狩猟は認められていません。そうすると、日出前・日没後にクマが出たり、住宅街にクマが出た場合には、ハンターはクマを駆除できないこととなります。

 そのような場合には、ハンターは警察官の命令を得て、クマを駆除できると考えられています。警察官職務執行法4条1項により、警察官は、ハンターに対して、住宅街に現れたクマを猟銃を使用して駆除するように命令することができると考えられています。同項は、警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼすおそれのある狂犬、奔馬の類等の出現等危険な事態がある場合において、特に急を要する場合、自ら、又は、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に命じて、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることができると規定しています。住宅街に現れたクマも「狂犬、奔馬の類等の出現」に該当すると解されており、現実・具体的に人の生命・身体の安全等を確保するために必要な場合には、警察官は自ら発砲してクマを駆除したり、ハンターにクマを駆除するように命じることができるとされています(この命令を受けたハンターは、命令された駆除を行う義務が発生します。)。クマが人間の近くにいるような場合にはこれに該当するでしょうが、クマを人間がいない場所に追い込んで膠着状態になっているような場合はこれに該当しません。また、人が近くにいるような状態であれば、(誤って人を撃ちかねず)警察官が自ら駆除したり、ハンターに命令を出すことは現実的にはむずかしいでしょう。最近、警察官がライフル銃をクマ駆除に使用できるようになったことが話題になりましたが、現実的に、それを利用することが出来る場合があるかは疑問です。

 また、警察官の命令がなかったとしても、現実・具体的に人の生命・身体の安全に危険が迫っている場合には、ハンターが銃器を利用してクマを駆除したとしても、刑法の緊急避難として違法性が阻却され、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律等の違反による刑事罰に問われることはないと考えられます。しかし、緊急避難も上記のような膠着状態の時には適用できませんし、上記と同様に、人が近くにいるような状態であれば、(誤って人を撃ちかねず)ハンターが発砲することは現実的にはむずかしいでしょう。

 そこで、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律は、緊急銃猟制度を創設し、2025年9月から施行されました。上記のような膠着状態であっても、また、人の日常生活圏であっても、銃猟を可能とするものです。具体的には、市町村が、ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシを対象として、人に弾丸が当たらないように安全を確保した上で実施しますが、銃猟の実施行為はハンターへの委託が可能とされています。また、緊急銃猟ができるのは、

・危険鳥獣が人の日常生活圏に侵入し、
・危険鳥獣による人の生命又は身体に対する危害を防止する措置が緊急に必要で
・銃猟以外の方法では的確かつ迅速に危険鳥獣の捕獲等をすることが困難であり
・避難等によって地域住民等に弾丸が到達するおそれがない場合

の全ての要件を満たす場合にのみ実施することができます。2点目については、ハードルが高いように思われますが、ヒグマやツキノワグマが人の日常生活圏に侵入した場合には人の生命身体に危害を生ずるおそれが大きいため、基本的には「人への危害を防止する措置が緊急に必要」の条件に該当することとなると考えられています。今後は、この緊急銃猟によりクマに対処することが期待されています。

3 クマ対策に関する民間の取組み

 クマ対策については、民間での取組も進んでいます。最近、注目を集めているのが害獣の自動検出AIである「Bアラート」です。カメラを設置して、そのカメラに写るものを検知した上で、AIにより害獣かどうかを判別し、害獣と判断した場合には、自治体や警察・消防等に通報する仕組みとなっています。AIアルゴリズムは北陸電力が開発し、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシ、ツキノワグマ、 ニホンカモシカ等を対象とし、検出精度は99.9%とされています。すでに複数の自治体が導入しており、富山市では、防災行政無線と自動連携するシステムを構築し、本年8月22日から実証実験が始まっています。これまでは、クマを発見した場合には、市職員が現場に向い、そこで住民に注意喚起していました。防災行政無線と自動連携することにより、クマを発見した場合には、自動で防災無線による注意喚起をすることができる仕組みとしています。
 カメラを使用する場合には、インターネット環境の整備だけではなく、人が通る場合にはプライバシーや個人情報保護法との調和も必要となりますが、有効な取組となると期待されています。

(文責:木村)

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