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知財判例ヘッドライン vol.98

2026/01/30

知財判例ヘッドライン vol.98

 今回ご紹介するのは、動画の投稿が権利侵害に該当することをGoogle社に通知するためのフォームを利用した通知が、不法行為を構成するかが問題となった裁判例です。

 Yは、原告X1・X2らが、Yの氏名や顔写真等を用いてYを批判する内容を含む動画をYouTubeに投稿していたため、YouTubeを運営するGoogle社に対して、著作権侵害通知フォーム、プライバシー侵害通知フォーム及び名誉毀損通知フォームを用いて、自身の著作権侵害・プライバシー権侵害・名誉毀損があるとする通知を行いました。
 これに対して、Xらは、当該通知により動画が削除されるなどの措置を受けたとして、各通知は表現活動・事業活動を不当に妨害等する不法行為であると主張し、民法709条に基づく損害賠償を求めた事案です。
第1審は、請求を棄却したため、X1・X2が控訴しました。知財高裁は、原審と同様に、各侵害通知はいずれも、Xらに対する不法行為を構成しないと判断しました。

 YouTubeにおける権利侵害通知による不法行為の成立に関する裁判例としては、

✓  著作権侵害その他の正当な理由なく作成した動画の投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有するとしたうえで、「YouTubeヘルプ」により課された投稿者によるコンテンツの使用が法律で許可されていないことを確信していること等の注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては不法行為が成立する可能性がある旨判示するもの(大阪高判令和4年10月14日)

✓ YouTubeの著作権侵害に係る制度に則っていることを前提として、著作権侵害がないにも関わらず著作権侵害申告がされて一定期間YouTubeにおける動画の公開が停止され、著作権侵害があると考えて著作権侵害申告したことについて過失がある場合、一定期間動画が削除(配信停止)されたことにより、動画の配信がされていれば得られるはずであった収入を得られなかったという経済的損害について不正競争防止法2条1項21号(虚偽表示)、4条に基づく損害賠償が認められるとしても、それ以外に動画投稿者の表現の自由その他の権利又は法律上保護される利益が違法に侵害されたとは認められず、不法行為の成立は認められないというべきである。もっとも、著作権侵害がないことを認識しながら、特定の動画投稿者について多数回にわたって著作権侵害申告を行い、動画の公開を妨げるような場合や、著作権侵害がないことを明確に認識してなくとも、著作権侵害申告を行う目的やそれに伴う行為の態様等の諸事情に鑑み、著作権侵害を防ぐとの目的を明らかに超えて動画投稿者に著しい精神的苦痛等を与えるような場合は、動画投稿者の法律上保護される利益が違法に侵害されたものとして、例外的に不法行為の成立が認められる場合があるというべきである旨判示するもの(知財高判令和7年2月19日)。

などがあります。

 原告は上記の1つ目の裁判例(大阪高判令和4年10月14日)の判断枠組みを援用して主張を行っていましたが、原審の裁判所は、「専ら不当な目的で著作権侵害通知フォームからの通知がされた場合、通知の回数、内容及び態様によっては、上記通知をすることが、当該動画を投稿した者の法律上保護される利益を侵害するものとして違法となる余地がある」として、2つめの裁判例(知財高判令和7年2月19日)に近い考え方を採用しました。

 本件(控訴審)において、裁判所は、Google社が著作権侵害通知フォームによる申請内容について一定の審査を行っており、フォームに必要事項が記載されたからといって無条件に動画を削除しているとはいえないと認定し、原審の判断基準を支持しています。また、利用規約上、契約違反や第三者に損害を与える場合など、コンテンツの内容が相当ではないとGoogle社が判断した場合には、同社が独自の裁量でコンテンツを削除できることも考慮したうえで、著作権以外の権利侵害の疑いがある場合において、本来利用すべきフォームではなく、著作権侵害通知フォームを利用して通知したからといって、直ちに通知の対象者との関係で、違法な行為をしたということはできないと判断しました。

 Google社が、プライバシー侵害通知フォームからの通知に係る動画の内容が、法律上のプライバシー権侵害に当たることまでは求めていないこと、また、名誉毀損通知フォームについても、同様に、通知に係る動画の内容が、法律上の名誉毀損ないし侮辱に当たることまでは求めていないことから、権利侵害の疑いがある場合にGoogle社へ通知する行為自体は直ちに違法とはいえないとの考え方を示しました。
 また、プライバシー侵害通知フォームからの通知については、「専ら不当な目的でプライバシー侵害通知フォームからの通知がされた場合、通知の回数、内容及び態様によっては、上記通知をすることが、動画を投稿した者の法律上保護される利益を侵害するものとして違法となる余地がある」との判断枠組みを示したうえで、本件では、Yが専ら不当な目的でプライバシー侵害通知フォームからの通知をしたと認めることはできないと判断しています。

 本判決はYouTubeでの権利侵害通知が不法行為となるための判断枠組みを具体化した点で、実務上参考になるものです。
 特に、通知フォームの選択や法的な評価に誤りがあった場合でも、権利侵害の疑いがあり、また、プラットフォーム側に独自の審査・裁量が存在する場合には、通知する行為自体が直ちに違法とはいえないとの考え方は参考になる部分かといえます。

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