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長島 亘成瀬 健太郎木村 一輝松本 伸也

インサイダー取引規制の改正へ向けた金融庁WGの動き

2026/01/30

インサイダー取引規制の改正へ向けた金融庁WGの動き

1 2025年もインサイダー取引が問題に

 インサイダー取引規制については、2024年に、金融庁職員(裁判所からの出向)や東証職員に関しTOB関連のインサイダー取引規制違反事件が発生したことはご案内のとおりであり、過去の本欄においても取り上げました。
 続いて2025年にも、やはりTOB関連のインサイダー情報について、信託銀行職員によるインサイダー取引規制違反事件が問題になりました。左記事件は、部長職等にあった当該職員が、証券代行業務に関してTOB関連の未公表のインサイダー情報を取得した後に対象株式を買い付け、その後に売却して3件合計で約2900万円の利益を得たというものでした。これに対し東京地裁は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金200万円、追徴金約6000万円の有罪判決を言い渡しています。

 このようなTOB等に関するインサイダー情報によるインサイダー取引規制違反事件が発生するなか、昨年、金融担当大臣が金融審議会において「市場機能が十全に発揮されるよう、不公正取引規制の強化等について検討を行うこと」との諮問を行い、これを受けた同審議会の「市場制度ワーキング・グループ」が当該強化等について審議を行っていたところ、2025年12月26日付で「市場制度ワーキング・グループ報告」が取りまとめられ、公表がされました。

2 金融庁のワーキング・グループが改正に関する報告を作成

 この「市場制度ワーキング・グループ報告」は、有価証券の不公正取引について、既存の法令では捕捉できない事例や、課徴金が低く抑止効果が不十分な事例が生じていることへの制度的対応に関する報告ということで、そのうちインサイダー取引規制に関連するものとしては、

 ① インサイダー取引規制の対象者の範囲拡大等
   (1) TOB対象企業の関係者を追加
   (2) 「親会社」の定義の見直し
 ② 課徴金制度の見直し(算定方法の見直しによる水準引き上げ)

が見られます。

 上記「報告」は金融審議会総会に報告される予定であり、その後に立法手続などが進められることが想定されます。

 上記のインサイダー取引規制に関連するものを具体的に見てみると、
まず上記①(1)については、従来、金商法167条のTOB等のインサイダー情報に関する規制類型においては、「買付者」側については役職員のほか、買付者との契約締結者などが「関係者」として規制対象とされていますが(同条1項1号以下)、他方で、(TOB等の対象となる)「発行者」側については、「発行者」自体と、その役職員が「関係者」として規制対象として規定されています(同項5号)。

 つまり、(「買付者」側と異なり、)「発行者」との契約締結者などは「関係者」として直接の規制主体とはされていないわけですが、TOB等の場面ではアドバイザーなどがその情報に接する蓋然性があり、これらの人々も「関係者」として規制対象に追加することが適当である、というのが今回の報告になります。
 具体的な方向性としては、(「買付者」側、ないし、166条の会社内部のインサイダー情報に関する規制類型と同様の構造として、)「発行者」の契約締結者などが規制主体として列挙されることが考えられます。その場合、当該契約締結者などからインサイダー情報を受領したものが(従来は「第二次情報受領者」として規制対象ではなかったが)「第一次情報受領者」として規制対象になることも想定されます。

 次に、上記①(2)については、金商法166条(会社の重要事実に関する場合)における上場会社、167条(TOB等に関する場合)における「買付者」のいずれについても、その「親会社」の関係者は「関係者」として規制対象とされていますが、ここで、「親会社」とは、直近の有価証券報告書等に「親会社」と記載された会社とされています(同条5項、施行令29条の3)。
 しかし、有価証券報告書等の提出後に(親会社のような)支配を獲得した会社の関係者が規制対象にならないなどの不都合性が指摘されており、「親会社」とは「意思決定機関を支配している会社」と直接的に定義することが適当である、というのが今回の報告です。

 また、上記②については、TOB等の関係者によるインサイダー取引に関する課徴金の算定方法の見直しが報告されています。すなわち、従来、この場合の課徴金は、TOB等の公表前の違反行為における取引価格と、公表後2週間における最大の価格の差額が経済的利得相当額になるとされています(175条2項)。
 しかし、TOB等の事実の公表による市場価格への影響は2週間で収束するとは限らないこと(そのほかにも、対抗買いの発生に伴う上昇がありうるなど)から、TOBの過去事例の分析により平均的な上昇割合を算出して、公表日前日の終値に当該割合を乗じた額を用いることが考えられる、さらに違反行為抑止の観点から、現行の算定方法による課徴金額と比較していずれか高い方とすることが適当である、というのが今回の報告です。

 なお、上記「報告」においては、これらのほかに、他人名義口座の提供を受け不公正取引を行う場合の課徴金の引き上げなどについても報告されています。
 上記①(1)の点、また、他人名義口座による悪質な事案の発生については、証券取引等監視委員会が取りまとめる課徴金事例集においても言及がなされていたところであり、これらの動きも踏まえ、今回の「報告」がまとめられたと解されます。

 今回のワーキング・グループによる「報告」を踏まえ、今後、立法へ向けた手続が検討されることになると思われます。法令の改正が行われた場合には当該改正をキャッチアップし、「うっかりインサイダー」を含めた違反が生じないよう注意することが必要となります。
 

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