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中野 明安

その避難判断で会社は従業員を守れるか
―豪雨・水害時の安全配慮義務と“帰宅・出社判断”の法的リスク―

2026/05/29

その避難判断で会社は従業員を守れるか
―豪雨・水害時の安全配慮義務と“帰宅・出社判断”の法的リスク―

判断を適時に行うことの難しさを確認しましょう

 6月は梅雨の季節であり、さらに台風シーズンとつながります。それに伴い、水害リスクが急激に高まる時期です。近年の災害、特に気象災害については予報の精度が高まり、それにつれ企業に求められる安全配慮義務の水準も確実に引き上げられています。特に問題となるのが、悪天候の状況下で「出社させるか」「帰宅させるか」「避難させるか」など適時すみやかに行われるべき「企業判断」についてです。

 この「判断」というポイントに関し、重要な示唆を与えるのが、いわゆる七十七銀行女川支店事件判決です。

七十七銀行女川支店事件判決から貴重な教訓を学び取ろう

 仙台高等裁判所平成27年4月22日判決(七十七銀行女川支店事件)
 東日本大震災において、行員が津波により被災した事案について、裁判所は、銀行に安全配慮義務が存在すること自体は明確に認めました。その上で、当時の津波の規模や進行状況等を踏まえれば、具体的にどのような避難措置を講じるべきであったかについては一義的に明らかであったとはいえず、結果として安全配慮義務違反までは認めませんでした。

 特に注目すべき判旨は以下の点です。

「より安全な避難場所への避難を指示すべき義務について、控訴人ら(※ご遺族側)は、未曾有の大震災に直面し大津波が予想される中で、どの程度の高さの津波が襲来するかを予見することは現在の科学では不可能であり、安全な高さの津波など観念し得ない以上、津波がどの程度の高さになるかということは安全確保のためになすべき措置の内容を左右するものではなく、津波の襲来に関する具体的な予見可能性がある場合には最善の避難を行うべきである旨、そして、この観点から、本件地震発生後直ちに本件屋上よりも高い場所にあってより安全な避難場所である堀切山への避難を指示すべきであった旨を主張する。
 確かに、襲来する可能性のある津波の高さを確実に予想することができない以上、津波災害による人命の被害をより確実に防止するためには、津波が襲来することについて具体的な予見可能性がある場面では、事前に想定されていた津波の高さや警報等により予想された津波の高さにかかわらず、より安全な場所に避難するよう尽力する必要があるといえる。しかし、現状においては、津波に関して、その高さのみならず到達時刻についてさえも確実に予測することは困難であり、さらに、大きな地震があれば、通常は、建物や道路が損壊したり強い余震が発生したりするものであり、これらの事情のため、避難を行うことについては相応の危険を伴うことになるところ、避難場所を決定するに際して、このような危険についても考慮の上で避難を行う必要がある。そのため、津波の襲来が迫り、到達時刻も確定し得ない状況下で、避難場所の相対的な安全の優劣を判断して避難場所を決定することについては困難があるといえる。また、より遠く、より高い場所に避難すれば津波からの安全性は高まることになるから、特定の場所を避難場所として予定している場合においても、それよりも安全な場所は広範に存在し得ることになる。これらの事情を考慮すると、津波の高さや到達時刻等に関する予想を考慮せずにより安全な場所の存否を基準とする避難行動を義務付けるとすれば、際限のない避難行動を求められ、結果的には、事後的に判断して安全であった避難場所への避難が行われない限り義務違反が認められることになりかねない。よって、より安全な避難場所がある場合にはそこに避難すべき旨の安全配慮義務を課することは、義務者に対して、不確定ないし過大な義務を課することになるから相当とはいえない。したがって、津波からの避難に関して安全配慮義務に違反したか否かを検討するに当たっては、襲来する津波の高さや到達時刻等に関する専門家による合理的な予想が存在する場合には、これを疑うに足りる情報が存在しない限り、これを前提として適切な対応をとったかどうかという観点から避難行動の適否を評価するのが相当である。」

判決から得られる教訓は普遍的なもの

 この判決から導かれる実務的な教訓はかなり明確です。

① 想定を明確化する
 ハザードマップなどから得られる「被害想定」を明確に意識します。つまり判断をする「前提」について明確化、明文化するということです。

 次に
② 判断根拠を記録する。
 なぜその判断をしたか。後からきちんと説明できるよう体制を整えることです。もちろん、被災直前にそのような記録を書面で残すことなど現実的ではありません。だからこそ、BCPで判断根拠を明示しておくのです。

 つまり、
③ 判断基準を事前設定する。
 「警報レベル○で帰宅」など具体的に設定し、恣意性排除しておくことです。判断の遅れは、それ自体義務違反になり得るものです。判断遅れが生じないよう、恣意性を排除した基準を設定します。「臨機応変に対応する」という判断基準では判断できません。臨機応変には対応できないものであることを明確に認識してください。

 さらに、
④ 管理職教育も重要と思います。
 私が説明している「合理的判断とは何か」を管理職の皆様が十分に理解し、実際の場面で合理的な判断ができるための能力を備える必要があり、そのための教育は不可欠であると思います。そして、その能力こそが、従業員を守り、管理職自身を守り、かつ会社を守ることとなります。

「合理的判断を行い、それを説明できるようにしておく」

 この七十七銀行女川支店事件判決は、企業に“無限の責任”を課さない代わりに、“合理的判断がなされたかをしっかり説明できるようにしておく責任”を課したものです。豪雨・水害が現実のリスクとなるこの時期に、自社の判断体制が実際に機能するものとなっているか、今一度見直すことを求めたいと思います。

※貴社のBCPの取組について無料相談を致します(1回30分)。
 事務所あるいは中野までメールにてお問い合わせください。

(弁護士 企業防災ガバナンス・アドバイザー 中野 明安)

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