新年度になりきっと皆さんの会社ではやるでしょう ~備蓄点検
企業における防災対策は、「備えていること」自体に安心感が生まれやすい分、盲点も潜みます。その典型が、防災用品や備蓄食料の「期限管理」です。ヘルメットや保存水、非常食、簡易トイレなどを整備していたとしても、それらが期限切れであれば、いざというときに機能しない可能性があります。本号では、見落とされがちな「期限切れ防災」と安全配慮義務との関係について考えます。
労働契約法第5条は、使用者に対し、労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する義務、すなわち安全配慮義務を課しています。この義務は平時に限らず、災害時にも及びます。むしろ、災害という異常事態においてこそ、企業の備えの実効性が問われるといえるでしょう。
配備したことの安心が、実はリスクに直結するのです。
ここで問題となるのが、防災用品の「形式的整備」と「実質的機能」の乖離です。例えば、折りたたみ式ヘルメットや防災用ヘルメットは、樹脂素材の経年劣化により強度が低下します。一般に5年程度での交換が推奨されていますが、これを超えて使用されていた場合、外見上問題がなくても衝撃から従業員を守れない可能性があります。また、保存水や非常食も賞味期限を過ぎれば品質や安全性が保証されません。
「うっかりインサイダー」同様の「うっかり安配違反」
このような状態を放置していた場合、企業は「備えていた」と主張できるでしょうか。むしろ、必要な備えを怠っていたと評価されるリスクがあります。特に、災害発生時に従業員が負傷したり、適切な食料・水が供給されなかった結果として健康被害が生じた場合には、安全配慮義務違反が問われる可能性は否定できません。
実務上重要なのは、「気づかなかった」という事情は免責理由になりにくい点です。防災用品や備蓄品は、単なる保管物ではなく、企業が従業員の安全確保のために用意した重要な安全資源です。したがって、その管理についても、相応の注意義務(善管注意義務)が求められると考えられます。
「うっかり」をなくして実質的な安全配慮を実現しましょう。
では、どのような対応が求められるでしょうか。第一に、備蓄品の「見える化」です。各用品について導入時期・使用期限・保管場所を一覧化し、管理台帳を整備することが出発点となります。第二に、定期的な点検と更新です。年1回の棚卸しに加え、期限が近づいたものは計画的に入れ替える運用が必要です。第三に、責任者の明確化です。総務部門任せにするのではなく、BCPの一環として管理責任者を定め、組織的に管理する体制を構築すべきです。
さらに、期限管理は単なるコストではなく、「訓練機会」として活用する視点も重要です。期限前の非常食を防災訓練で実際に食べてみること、備蓄している非常トイレを実際に使用してみることで、現実の運用課題や従業員の反応を確認することができます。これはBCPの実効性向上にも直結します。
命を守る防災 防災は善管注意義務の一環であり経営課題です。
防災対策において最も重要なのは、「いざというときに機能すること」です。期限切れの備蓄は、安心どころか、企業の責任リスクを高める要因となり得ます。今一度、自社の備蓄を点検し、「使える備え」になっているかをご確認ください。それが、従業員の命と企業の信頼を守る第一歩となります。
(弁護士 企業防災ガバナンス・アドバイザー 中野 明安)

