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環境・エネルギー法の近時の動向

2024/07/31

環境・エネルギー法の近時の動向

 今回は、令和5年3月31日に公正取引委員会によって策定された「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(以下「グリーンガイドライン」)をご紹介します。

1 グリーンガイドラインの策定背景

令和3年10月22日、「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、2050年のカーボンニュートラル実現という目標と整合的で野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、さらに、50%削減という高みに向けて挑戦を続けていくことが表明されました。
 上記削減目標を達成するためには、「グリーン社会」(環境負荷の低減と経済成長の両立する社会)を実現する必要があるところ、グリーン社会の実現は、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われる必要があり、それぞれが一定の責務を負うことになります。
 グリーン社会の実現に向けた政策として中心的な役割を担うのは、規制や補助金等による直接的な対応を実施する環境政策等ですが、一方で、独占禁止法及び競争政策も補完的な役割を担うものとされています。なぜなら、独占禁止法及び競争政策は、事業者間の競争を促進して資源の効率的な利用を促し、新たな技術等のイノベーションを引き起こす観点から、グリーン社会の実現に間接的に貢献するものと考えられているからです。
 この点、独占禁止法上の考え方が明確でない場合には、グリーン社会の実現に向けて事業者等が様々な取組を模索する中で、自らの取組が独占禁止法上問題となるのではないかという懸念を生じさせるおそれがあります。これまでも、各種指針や相談事例の公表を通じて、公正取引委員会から独占禁止法上の考え方が示されてきたところではありますが、今後より一層グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組が活発化・具体化することが考えられるため、競争政策の観点からも、これまで以上に事業者等の取組を促進することが求められます。
 そこで、公正取引委員会は、新たな技術等のイノベーションを失わせる競争制限的な行為を未然に防止するとともに、事業者等の取組に対する法適用及び執行に係る透明性及び事業者等の予見可能性を一層向上させることで、事業者等のグリーン社会の実現に向けた取組を後押しすることを目的として、グリーンガイドラインを策定することとしました。グリーンガイドラインの策定にあたっては、令和4年10月から12月にかけて、経済取引局長主催の「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関するガイドライン検討会」が開催され、令和5年1月13日の原案公表、同年2月13日を期限とした意見募集を経て、同年3月31日、原案を一部変更した内容で策定されるに至りました。

2 基本的な考え方

 グリーンガイドラインの基本的な考え方は、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い」というものです。グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されています。

 一方で、事業者等の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限し、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果のみを持つ場合には、名目上はグリーン社会の実現に向けた取組であったとしても、新たな技術等のイノベーションが失われたり、商品又は役務の価格の上昇や品質の低下が生じたりすることにより一般消費者の利益が損なわれることになり、独占禁止法上問題となるものとされています。この点、事業者等の取組に競争制限効果が見込まれつつ競争促進効果も見込まれる場合がありますが、そのような場合には、当該取組の目的の合理性及び手段の相当性(より制限的でない他の代替的手段があるか等)を勘案しつつ、当該取組から生じる競争制限効果と競争促進効果を総合的に考慮して、独占禁止法上問題となるか否かが判断されることとなります。

 なお、グリーンガイドラインにおいては、上記のような枠組みの下、事業者等の実際の活動と独占禁止法との関係についてできるだけ分かりやすく示そうとしたものであって、グリーンガイドラインで挙げている想定例はあくまでも類型化・抽象化された例示であることが注意書きされていますので、最終的には、独占禁止法の規定に照らして、個々の事案ごとに判断されることに留意が必要です。

3 グリーンガイドラインの構成

 グリーンガイドラインでは、以下の構成により、それぞれ「独占禁止法上問題とならない行為」及び「独占禁止法上問題となる行為」等の想定例が示されるとともに、独占禁止法上の問題についての判断枠組みや判断要素の説明がなされています。

出典:公正取引委員会
「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方<概要版>」(令和6年4月改定)

4 おわりに

 早速具体的な内容についてご紹介させていただきたいところではありますが、具体的な内容については、本メルマガ冒頭でご案内させていただいたMLOセミナー「企業の環境経営を取り巻く現在の状況~求められる取り組み・開示・ステークホルダーとの対話の観点から~」でご説明させていただく予定ですので、本稿ではあえて割愛させていただきたいと思います。本セミナーでは、グリーンガイドラインのみならず、①環境に向けた取組、②開示、③対話・議決権行使のぞれぞれの観点から、関連する法令やガイドライン等を多角的にご紹介する予定ですので、奮ってご参加いただけますと幸甚です!

(文責:堀口佐耶香)

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