先日、個人情報保護委員会から「一般送配電事業者及び関係小売電気事業者による新電力顧客の個人情報の不適切な取扱い事案における再発防止策の実施状況及び全社的総点検の結果について」との文書が公表されました。この文書は環境・エネルギー法と個人情報保護法(以下「個情法」という。)が交錯する分野を取り上げていますので、ご紹介します。
1 送配電部門の分社化による問題
本件は、一般送配電事業者と、関係小売電気事業者における個人情報の不適切取扱い事案であり、
(ⅰ)発電所から消費者まで電力を供給する送配電事業者(例:「関西電力送配電株式会社」)
(ⅱ)消費者に電気を販売する小売電気事業者(例:「関西電力株式会社」)
が登場します。なお、一般送配電事業者とグループ関係等にある小売電気事業者を、この文書では「関係小売電気事業者」と呼んでいます。上記の関西電力は、関西電力送配電のグループ会社であり、「関係小売電気事業者」です。
2 送配電部門の分社化の経緯
かつては、各地域につき1社の電力会社が、「発電」「送配電」「小売」という3部門を一貫して提供するという、地域独占の形態にありました。これが経営の効率化を妨げること等を理由として、電力改革が行われました。発電部門と小売部門は先行して自由化されましたが、送配電部門が、新しく参入した事業者を平等に扱わないと、健全な競争が行われないとされました。そこで、ひとつの事業者が地域独占的に送配電サービスを提供する形態は残しつつも、送配電部門と小売部門を分離することとされました。具体的には、送配電部門全体を別会社化した上で、別会社化された一般送配電事業者とグループ会社である小売電気事業者(関係小売電気事業者)を優遇しないように、様々な法的な規制を設けています。
3 送配電部門の分社化による個人情報の取扱いの問題点
一般送配電事業者は、送配電事業を行うために、電力の供給を受けている家庭の顧客情報(個人情報)を保有しており、この中には、
①自社のグループ会社である関係小売電気事業者(関西電力)と契約している家庭の顧客情報
②それ以外(グループ外)の小売電気事業者(関西電力以外の小売電気事業者)と契約している家庭の顧客情報
があります。
関係小売電気事業者(関西電力)は、上記①を見ることはできますが、上記②は自社の情報でないため、見ることはできないはずです。ところが、一般送配電事業者(関西電力送配電)は、適切な安全管理措置(関西電力が上記②を見ることができないようにする措置)を講じなかったため、関係小売電気事業者(関西電力)は、上記②を閲覧し、顧客獲得の営業活動に利用する等していました。なお、電気事業法により、一般送配電事業者は、その情報の目的外利用や、小売電気事業者を差別的に取り扱うことを禁止されていました(同法23条1項1号、同2号)。そのため、一般送配電事業者が上記②を、営業活動等のために使用する関係小売電気事業者にのみ閲覧させることは、これらの規定に違反していました。
4 問題点解消のための措置
個人情報保護委員会は、令和5年6月29日に個情法147条による指導を行うとともに、同法146条1項に基づき、再発防止策の実施状況及び個人情報の取扱いに関する全社的総点検の結果等について報告を求め、その結果を公表したのは冒頭の文書です。
一般送配電事業者は、適切な安全管理措置を講じて上記②を閲覧できないようにしたりする等の安全管理措置を講じたことを、関係小売電気事業者は、不適正な取得をしないような教育を実施したこと等を報告しました。
(文責:木村一輝)