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環境・エネルギー法の近時の動向

2024/01/31

環境・エネルギー法の近時の動向

 今回は、昨年5月に成立した温暖化対策のためのGX推進法と、昨年10月に東京証券取引所で開設されたカーボン・クレジット市場についてご紹介します。

1 GX推進法の成立経緯


 昨年2月10日、政府は、以下の2つの取組を進めることとする「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。

  1. ① エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた脱炭素の取組を進めること

  1. ② GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行うこと

 同方針に基づき提出された以下の2法案が同年5月に可決・成立しました。

  ・GX推進法(※1)-主に上記②に関するもの
  ・GX脱炭素電源法(※2)-主に上記①に関するもの

 (GX脱炭素電源法も、原子力関連の法律を改正して既存原子炉の活用を図るとともに、再エネ特措法や電気事業法を改正して再エネ電源の導入拡大支援を行うものであり、環境・エネルギー法的には無視しがたいものですが、)今回はやや謎めいた(?)前者のGX推進法をクローズアップします。

2 GX推進法の2つの柱

 GX推進法の大きな柱は2つです。

 1つ目は、GX経済移行債(※3)の発行による支援です。政府は、GX推進費用の財源として公債を発行できるとされ(7条)、これに基づき、エネルギー・原材料の脱炭素化と収益性向上等に資する革新的な技術開発・設備投資等を支援するため、2023年からの10年間で20兆円規模のGX経済移行債が発行されるとのことです。GX経済移行債は後記の化石燃料賦課金や特定事業者負担金により2050年度までに償還される予定です(8条)。

 2つ目は、カーボンプライシングです。簡単にいえば温室効果ガスの排出(削減)量に値付けをすることによって、排出削減への取組やGX投資にインセンティブを付与する仕組みです。

 具体的には、①化石燃料賦課金の導入(11条~)と②排出量取引制度(15条~)が規定されました。①は化石燃料の輸入事業者等に対して、化石燃料に由来するCO2の量に応じて賦課金を徴収する制度で、2028年度からの導入が予定されています。②は発電事業者に対して一部有償でCO2の排出枠を割り当て、有償の割当枠の量に応じた特定事業者負担金を徴収する制度で、2033年度からの導入が予定されています。有償の排出枠の割当てや単価は入札により決定されます。

3 GXリーグ

 このように化石燃料賦課金や排出量取引制度の開始はまだ先の話で詳細設計もこれからとなっていますが、足下では並行して政府主導でGXリーグの取組も始まっています。GXリーグとは、国内で自主的な排出量取引(GX-ETS)を実施するための取組です。排出量取引制度の本格導入に先立つ試行的な取組みですが、民間取引のルールメイキングのサポートの意味合いもあるようです。
 既に2023年度から第1フェーズ(試行段階)が開始されていますが、第1フェーズでは参加自体も任意であるほか、排出削減目標の設定も企業が自ら行うものとなっており、目標値や達成状況は公表されますが、目標未達であっても違反金などの設定はなく、理由の説明・公表をすれば良いとされています。第2フェーズは2026年から本格始動することになっています。その詳細は現在検討中として明らかにされていませんが、報道ベースでは、参加を促すためにGXリーグへの参加をGX移行債による政府支援の要件とすることや、目標設定水準の引き上げのために業種別指針を作成して目標の妥当性についての第三者認証を求めること、目標未達の場合に指導・勧告ができるようにすることといった対策を盛り込んだGX推進法の改正案を2025年の通常国会に提出することが検討されているようです。

4 カーボン・クレジット市場の開設

 また、GXリーグとは別に、昨年10月に東京証券取引所でカーボン・クレジット市場が開設され、既に市場での取引が開始されています。同市場では、当面、国が排出量削減効果を認証したJ―クレジット(※4)が売買の対象とされています。

5 おわりに

 温暖化対策の政策はこれまでも多種多様な制度が現れ、その効果も持続性も様々です。GX推進法によって今後どのように制度が変化していくのか、戦略的法務・総務の意味においても(有価証券報告書におけるサステナブル開示などへの影響も含め、)、また、もちろん地球環境の保全の意味においても、その動向にますます目が離せない分野になってきていると感じています。
 
(文責:神代優)


※1 正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」
※2 正式名称は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」
※3 正式名称は「脱炭素成長型経済構造移行債」
※4 省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。2023年度のクレジット認証量(移行含む)は929万t- CO2とのことです。

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