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長島 亘成瀬 健太郎木村 一輝松本 伸也

裏声で歌へ第三次改訂CGコードを

2026/07/30

裏声で歌へ第三次改訂CGコードを

1 はじめに

 本年7月21日に第三次改訂CGコードが発効しました。その概要や変更点については、既に新聞・雑誌あるいは金融庁・東証のHP等で詳細に解説されていますので、いまさら屋上屋を架す必要はないでしょう。そこでここでは、「裏」すなわち、舞台裏という視角から第三次改訂CGコードあるいはCGコード全般を改めて見つめてみようという趣向(酒肴?)にします。

2 ソフトローの源流を辿ってみると

 CGコードはソフトローの一つとして制定されたものと一般には理解されていると思います。ソフトローとは、正当な立法権限に基づき創設された規範ではなく、原則として法的拘束力はないが、当事者の行動及び実践に非常に大きな影響を与える規範、と定義されています。日本でソフトローがもてはやされるようになったのは、小泉内閣時代(2001年〜2006年)に「聖域なき構造改革」・「規制緩和」・「官から民へ」・「法律による規制から民間の自主ルールへ」といった標語のもとで推奨されだしたのです。このような文脈の中で、CGコードは民間の自主ルール(規範)として定められました。確かに、CGコードは、株式会社東京証券取引所(東証)という一民間企業が制定した有価証券上場規程(以下「規程」)第436条の3に定められているものです。そして、同規程の制定・改正については、内閣総理大臣の認可は必要ではなく、事前届出で足りるとされています(金商法第149条2項)。したがって、建前としては、「民」が定めた自主ルールであり、東証に上場する民間企業が東証との契約に基づいてこれに従うというかたちをとっていることは間違いありません。pacta sunt servandaというわけですね。
 

3 CGコードは名実ともに民間の自主ルールなのでしょうか

 それでは、CGコードの実態はどうなのでしょうか。名実ともに民間の自主ルールと胸を張っていえるものなのかということです。そこで、CGコードの制定・改訂の経緯を辿ることにしましょう。もともとCGコードは、2015年に金融庁(官)と東証(民)を共同事務局とする有識者会議で策定されたCGコード(原案)がそのまま東証の規程として採用されたものです。その後のCGコードの改訂に際しても、金融庁と東証が有識者会議の共同事務局を務めるという構図は変わっていないようです。しかし、監督者である金融庁と被監督者である民間企業である東証が対等の立場で「共同」し手を携えてCGコードを制定・改訂に関与したかについては疑義をはさむ余地がありそうです。また、CGコードは、安倍政権下における「日本再興戦略」の下で経産省が主導して立ち上げたプロジェクトで纏められた通称伊藤レポート1.0の考え(「稼ぐ力の向上を目指して資本コストを意識した経営ROE8%以上」等)を具現化するルール(例えば「独立社外取締役の導入」や「株主との建設的な対話」等)として制定されたようです。2018年のCGコード第一次改訂でも、2017年に経産省が作成した「CGSガイドライン」を反映したもの、2021年のCGコード第二次改訂では伊藤レポート2.0が、更に今回の第三次改訂でも伊藤レポート3.0が反映されているとされています。
 このように見てくると、CGコードの制定・改訂は、民間の自主ルールという衣を被ってはいるものの、官主導の規制ルールという実態が浮かび上がってきます。

4 上から目線と微に入り細を穿ったようなCGコード(規制緩和のパラドックス)

 そもそも、人(法人を含む)の権利義務を規制できるのは、「唯一の立法機関」である国会が制定する法律のみなのです(憲法第41条)。民主主義の世では、国政選挙で選ばれた国会議員で構成された国会で定めた法律が唯一国民の権利義務を規制できる正統性があると認められるからなのです。ただし、契約自由の原則、すなわち対等な当事者間の自由意思に基づく契約によっても例外的に人の権利義務に制約を加えることができることになっています(先ほどのpacta sunt servandaですね。)。上記のとおり、CGコードは胸を張って民間(東証)が定めた自主ルールとはいえないものであるとするならば、CGコード(ソフトロー)による法律への領空侵犯ではないかという疑いがよぎるのです。

 今回のCGコードの第3次改訂までに辿ってきたCGコードの原則数と構造は次のとおりでした。
・2015年制定時  :基本原則5・原則30・補充原則38 三層構造全73原則
・2018年第一次改訂:基本原則5・原則30・補充原則43 三層構造全78原則
・2021年第二次改訂:基本原則5・原則31・補充原則47 三層構造全83原則

 このようにもともと詳細なCGコードは改訂の度ごとにそのボリュームを増してきました。コード制定者側に立つとその心情もわからないではありません。どうしてもあれもこれも定めておきたいという心情が先に立ってしまいますし、折角作ったコードを皆が右倣えで遵守してくれることによって得られる自己陶酔感はたまらないのでしょう。ですから、どうしても自主性を重んじようという自制(省)の念が効きにくくなるのではないでしょうか。ソフトローの長所の一つとして、法律事項として規制することが必ずしも適当とは思われない事項について、きめ細かく規制を及すことができるということが挙げられています。しかし、これまでのCGコードは、上から目線で一から諭して差し上げましょうという、上場企業の経営者にこんなことまで指図をするのかと呆れてしまうほど、微に入り細を穿ったような執拗さがありました。
 それでは、今回の第三次改訂ではどうなっているのでしょうか。第二次改訂と第三次改訂版との差をみてみましょう。

・2021年第二次改訂:基本原則5・原則31・補充原則47 三層構造全83原則
・2026年第三次改訂:基本原則4・原則26・補充原則0 二層構造全30原則に解釈指針が加わりました。

 三層構造が二層構造になるとともに83原則が30原則に削減され、一見するとスリムになったようですが、新たに解釈指針という詳細な説明が加わり、ボリューム的には殆ど変わりがないかむしろ増えているとの指摘があります。まさに、規制緩和のパラドックスといえましょう。 

5 CGコードにコンプライしていれば企業業績は向上するのでしょうか

 このことを信じている企業経営者は皆無でしょう。そもそもCGコードを規定している東証でさえ、CGコードを守っていれば必ず企業業績が向上すると確約してくれてはいないのです。それなのに、東証が自社のウェブサイトで公表している2025年の「東証コーポレート・ガバナンス白書」の付録にある「全83原則実施状況」によると、コンプライ率の高さは驚異的です。東証は定期的に上場企業のCGコードの対応状況の集計結果を発表していますが、一見不可解に思える結果も、この公表による企業に与える同調圧力のなせる業とみれば得心がいくのではないでしょうか。

 日本のCGコードは、1992年の英国の企業統治指針とされる「キャドバリー報告書」に範を求めたとされていますが、英国では「原則を形だけ遵守している企業より、遵守しない理由を丁寧に説明する企業の方が統治に真剣に向き合っている証と評価される。」という皮肉な新聞記事がありました(本年7月22日読売新聞朝刊)。それとて、英国企業の業績が非常にいいという話は聞いたことがありません。英国に範をとるとしても、当該企業統治指針についての効果のほどをきちんと測定したのでしょうか。どうも疑わしいように思われます。日本の法律は明治以降、欧米のそれを継受して制定されたという歴史的経緯があることからする流れなのでしょうが、そろそろその桎梏から脱して自国の文化に根差した独自のルール作りをしなければならないように思われます。

6 むすび

 興味深くお読み頂けたでしょうか。万一、第三次改訂CGコードの発効の出鼻を挫かれ、皆様の勉強意欲を著しく削いだとすれば申し訳ありません。しかし、CGコードは、上場企業が東証への上場に際しての契約内容の一部をなしています。したがって、規程第436条の3に定めているとおり、上場企業は、CGコードの各原則を「実施(Comply)」するか、実施しない場合は「その理由を説明(Explain)」しなければならず、加えてこの対応状況は、東証に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で開示する必要があります(規程第419条)。この条文に違反した場合は、公表措置・改善報告書の提出要求・違約金の支払請求・上場廃止などのペナルティが待っていますので、CGコードに違反することはご法度なのです。東証に上場している限り、最低限何をすれば違反とはならないのか(赤点を取らないで済むレベルはどこか)を知るためには第三次改訂CGコードも手を抜かずそれなりに勉強する必要があることは明らかといえましょう。孫氏の兵法の今でも有用です。CGコードがいつまで生きながらえるかは知りませんが。
 そういえば、近時、MBOが増加傾向にあるようですが、上場コストやマネーゲームを助長するような傾向に嫌気が差したという文脈で読み解くこともできるかも知れません。

以上

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