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環境・エネルギー法の近時の動向

2024/11/29

環境・エネルギー法の近時の動向

 今回は、2028年から導入される化石燃料賦課金を中心に、日本のカーボンプライシングの現状と将来の展望についてご紹介します。

1 GX推進法の概要

 2023年2月に閣議決定されたGX実行会議「GX実現に向けた基本方針」において、カーボンプライシング(企業などの排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法)によるGX投資先行インセンティブを付与するべく、「排出量取引制度」及び「炭素に対する賦課金」を導入していく旨が示されました。その後、第211回国会で脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(以下「GX推進法」)が成立しました。
 GX推進法は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を目的としており、概ね以下の内容で構成されます。


  •  脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の策定(同法6条)
  •  2023年度から2032年度に脱炭素成長型経済構造移行債を発行し、後記のカーボンプライシングにより2050年度までに償還すること
     (同法7~10条)
  •  カーボンプライシングとしての化石燃料の採取者等に課する化石燃料賦課金及び発電事業者に課する特定事業者負担金の導入
     (同法11~19条)
  •  カーボンプライシングに関する各賦課金の徴収、特定事業者排出枠の割当・入札に関する業務等を行う脱炭素成長型経済移行推進機構の設置(同法20条~72条) など

2 GX推進法の化石燃料賦課金導入の趣旨

 脱炭素成長型経済構造移行債は総額20兆円規模で発行するとされており、産業競争力強化・経済成長と排出削減のいずれにも資する投資等に対して政府支援を実施することとされています(同法6条、同戦略3.(2))。脱炭素成長型経済構造移行債の償還に化石燃料賦課金による収入が充てられるところ、本法における化石燃料賦課金導入の狙いとしては、企業がGX投資に集中的に取り組む期間として5年の期間を設けた上で2028年から化石燃料賦課金を導入し、当初低い負担で導入した上で徐々に引き上げていくこととし、その方針を予め示すことで、企業のGX投資の前倒しを促進することにあるとされています1

3 化石燃料賦課金の対象事業者及び賦課金の金額

 化石燃料賦課金の対象事業者は、「化石燃料採取者等」(11条1項)すなわち「原油等を採取し、又は保税地域・・・から引き取る者」(同法2条4項)とされており、化石燃料の採取又は輸入事業者2がこれに該当するとされています。なお、2012年から租税特別措置法の一部の改正により設けられた「地球温暖化対策の課税の特例」により、原油、石油製品、ガス状炭化水素、石炭の各燃料のCO2排出量に応じた税率を石油石炭税に上乗せする「地球温暖化対策のための税」は、化石燃料それぞれの採取や輸入の量に対して課税されていたところ、化石燃料賦課金は採取等に係る化石燃料によるCO2の排出量に直接単価を乗じて算出される点が異なり、よりCO2の排出削減を直接的に促す設計とされています。
 
 化石燃料賦課金の金額は、採取等に係る化石燃料に係るCO2の排出量(原油、石油製品、ガス状炭化水素、石炭の種別に応じて政令で定める単位当たりのCO2の排出量に、当該化石燃料の量を乗じて算出)に、化石燃料賦課金単価を乗じて算出されます(11条1項)。化石燃料賦課金単価の算出方法は、一定の上限及び下限(後記)の範囲内において、中長期的なエネルギーに係る負担の抑制の必要性及び法8条(脱炭素成長型経済構造移行債をカーボンプライシングにより2050年までに償還する旨)の趣旨を勘案して、政令で定めることとされています。GX推進法は、GX投資等の実施状況やCO2排出に係る国内外の経済動向等を踏まえ、施策の在り方の検討・必要な見直しを行い、それを踏まえてカーボンプライシングの詳細な制度設計について、本法施行後2年以内に必要な法制上の措置を行うこととされています(附則11条2項)。
 
 化石燃料賦課金単価の上限及び下限は、以下の表の左欄のとおりです。

(出典)環境省2024年3月12日 第2回税制全体のグリーン化推進検討会資料1
「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」4頁より抜粋
https://www.env.go.jp/content/000209894.pdf

 化石燃料賦課金単価の下限は、一定の投資への政府支援の原資とされる20兆円規模の脱炭素成長型経済構造移行債を2050年までに償還するために必要な下限の価格という観点から設定されていると考えられます。上限については「エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入する」、「具体的には、今後、石油石炭税収がGXの進展により減少していくことや、再エネ賦課金総額が再エネ電気の買取価格の低下等によりピークを迎えた後に減少していくことを踏まえて導入する」という方針が示されている3ことから、化石燃料賦課金については、GX推進により石油石炭税の税収の減少分を超えない範囲で上限価格を設定することと考えられます。

 このような観点から、化石燃料賦課金の単価の試算も行われており、例えば、日本エネルギー経済研究所の試算によれば、①CO2排出量が2050年度に2013年度比で70%減少するケースにおける化石燃料賦課金単価は、2028年の導入以降緩やかに上昇し、2050年には2069円、②上記CO2排出量が90%減少するケースにおいては、大幅な上昇率で単価が上昇し、2050年には6094円と試算されています。

(出典)日本エネルギー経済研究所「20兆円の歳出を生むカーボンプライス」
https://eneken.ieej.or.jp/data/11299.pdf) 

 2028年から導入される化石燃料賦課金は、日本のカーボンプライシング政策の重要な転換点となると考えられ、賦課金額の決定方法等に関する具体的な制度設計を巡る動向について、今後も注視していく必要があります。

(文責:久保田夏未)


1 https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000106044.pdf 18頁
2
https://www.env.go.jp/content/000209894.pdf
3
令和5年12月25日 第29回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース会議資料3
 経済産業省産業技術環境局内閣官房 GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」6頁

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