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神代 優木村 一輝尾臺 知弘武田 仁

クマ対策と法律②

2026/09/30

クマ対策と法律②

 前回、「クマ対策と法律」との内容でメルマガの記事を書いたところ、思ったよりも反響をいただきました。そのため、「クマ対策と法律②」と題して、最近のクマ対策と法律の動きを説明するとともに、新たな論点を取り上げてみたいと思います。

1 現在のクマ被害の状況

 クマの出没情報は令和7年度は約5万件でしたが、令和8年度は8月6日時点で約1.2万件です。もっとも、クマ被害による死亡者は令和7年度13人であったところ、令和8年度は7月末時点で6人となり、前年度から減少の様子は見えていません。
 これを受けて政府は定期的に「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」を開催しており、被害の状況や対策について協議をしています。上記の被害状況も令和8年7月31日に開催された関係閣僚会議で報告された被害状況であり、政府としては、「クマ被害対策の一層の強化が急務となって」いる、「危機感と緊張感を持って」対策に取り組むとしています(同日の関係閣僚会議における官房長官発言)。
 企業もクマ対策と無関係とはいきません。東京商工リサーチがアンケートを行っており、5140社のうちほとんどの企業は業務に影響が出ていないとしつつも、91社が業務に影響が出たため対応した、313社が業務に影響は出ていないが対応したと回答しています。実際にスーパーにクマが出没する等の被害が出た企業もあります。また、場合によってはクマ被害が労災になり、労災申請との形で影響がでる企業があるかもしれません。

2 クマの駆除と法律

 クマを駆除することができるのか、という点については一定の法的な手当てが行われています。
 そのうちの一つとして、前回のメルマガでご紹介しましたが、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律により認められた「緊急銃猟制度」があります。市町村が、ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシを対象として、人に弾丸が当たらないように安全を確保した上で、これらを銃猟することができます。実際には、市町村がハンターに委託して行われることが多いようです。この制度は令和7年9月1日から開始されましたが、令和7年度には60件、令和8年度には26件の「緊急銃猟制度」による発砲が行われています。
 警察も、北海道、東北6県、警視庁、新潟県及び長野県において、市街地等における警察によるライフル銃を使用したクマ駆除体制の確立を完了しました。警視庁では、「クマ駆除対応プロジェクトチーム」が発足し、市町村による「緊急銃猟制度」の対応が間に合わない場合には、警視総監の指示で出動し、警察官職務執行法によりライフル銃を使用してクマを駆除することが想定されています。

 また、都道府県も黙っておらず、東京、神奈川、埼玉などの首都圏においても、マニュアルを策定したり、各種の講習会や訓練を実施しています。

3 企業活動とクマ

 企業活動においてもクマの対策が必要な場合もあります。

(1)クマと労災
 従業員が業務中にクマ被害を受けた場合には労災となるのではないか、との議論が行われています。各種ネットメディアにも取り上げられています。
 実際に、鉄道沿線の土手の草刈作業中、草むらよりスズメバチが飛び出して、作業者3名を刺した事案や、作業現場から約1km離れた道具小屋に道具を取りに行ったところ、道具小屋の軒下にあったスズメバチの巣からハチが飛び出してきて、作業者の左手甲を刺した事案においては、労災と認められています。
 また、建設新聞電子版2025年11月12日によれば、建設業向け労災上乗せ保険「建設共済保険」で、50代の男性が見積書作成のために山間部の工事予定地を一人で調査し、社用車を離れたところでクマに襲われた事案について保険金が支払われていたとされています。
 一般論として、まず、労働者災害補償保険法があり、同法に基づいて、業務災害や通勤災害に対して給付が行われます。事業主が保険料を負担し、その保険料から、業務災害や通勤災害を受けた労働者に対して給付を行います。
 クマの被害が業務災害の場合には給付を受けられることになりますが、この業務災害と認められるためには、業務遂行性と業務起因性が必要とされています。このメルマガではその詳細には立ち入りませんが、例えば、森や市街地での業務中にクマに遭遇した場合には、業務災害とされる可能性が高いといえます。
 なお、企業が負っている安全配慮義務との関係が指摘されることもあります。安全配慮義務の詳細についても立ち入りませんが、使用者が、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務、などと考えておけば十分です(労働契約法5条)。クマ被害をうけた従業員が、企業にはクマが出没する可能性があるところで業務を行わせないようにしてクマの被害を受けないように配慮しなければならないところ、必要な配慮をしなかったから、被害を受けたのだ、として損害賠償請求がなされるのではないか、との問題として議論が行われています。
 工事現場などの屋外作業場所において、クマの足跡やフンが見つかった場合には、市町村や警察に連絡するとともに、クマの状況を確認するまでは屋外作業を中止する、屋外作業を再開する場合にはクマに関する教育やクマに自分の存在を知らせることができるベルを配布する等の対策を行わなければ、安全配慮義務違反となりかねません。
 もっとも、屋外作業場所ではなく、営業や出張などをする従業員に対してどのような配慮をすべきかは、非常に難しい問題です。実際に、企業が、すべての従業員の出張先等について、クマの被害がないか等を調査するのは現実的ではありません。多くの企業においては、上司が、クマ出没情報のある地域を知っている場合に、その地域に出張等する部下に注意を促す程度の対策をするのが精いっぱいと思われます。これで十分な安全配慮義務を尽くしたと言えるかは疑問もありますが、現実的には、クマの情報に注意するように、クマ出没の情報がある等の場合には業務を行わなくて良いので、その地域に近づかないように、と注意するのが精いっぱいの企業が多いのが現実でしょう。それでもやらないよりは百倍も良いことですので、積極的に従業員に対して注意喚起をすることが必要です。

(2)契約とクマ
 クマが出没したことにより、契約上の義務が履行できない事態も考えられます。例えば、受注者は、ある地域における屋外でのアンケート業務を請け負っていたところ、クマがアンケート場所付近に出没したとの情報があり、約束した期日までにアンケートを実施できなかった場合を例に考えてみましょう。
 この場合、発注者からすれば、「約束の期日までにアンケートを実施してくれなかった」ということになり、損害賠償請求をすることができるのかを検討することになります。一方で、受注者からすれば、「クマ対策の費用が増加したり、また、クマがいなくなるまで人を待機させていたので人件費が増加したので、その分を請求したい」と思うかもしれません。
 これらの問題は、発注者と受注者の契約に従って処理されることになりますので、一概に「こうなる」との結論を示すことは困難です。しかし、多くの場合にはクマの被害が「不可抗力であるか」を問題とすることになります。
 契約によりますが、例えば、不可抗力(ひとまず、当事者にはコントロールできず、発注者と受注者のどちらにも責任がない事由と考えることにします)の場合には、損害賠償責任を負わない、と規定する場合があります。この「不可抗力」の定義も契約に定められていることが多く、その定義に照らしてクマの出没が不可抗力にあたるかを考えます。一般論としては、クマの出没は当事者がコントロールできないばかりか、契約上はクマの出没は想定されておらず、どちらかがそのリスクを負担しているとは言えない場合には、クマの出没については不可抗力に該当するといえると解されます。冒頭の例において、不可抗力に該当する場合には、発注者は受注者に対して損害賠償請求をすることはできません。
 また、クマ被害により増加した費用についても、当然に発注者に請求できるものではなく、契約により決定されることになります(不可抗力とのことになれば、受注者は、発注者に対して、損害賠償請求として増加費用を請求することはできません。)。

(文責:木村)

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